インタビュー:甑山(ジュンサン)教化所から出所した女性 1
聞き手 シム・ウィチョン
北朝鮮内部のジャーナリスト、シム・ウィチョンは、二〇〇八年暮れ、甑山教化所に収監された体験を持つ女性Bさんと北朝鮮中部のある街で出会った。出所から数ヶ月が過ぎようとしているのに、Bさんは過酷な勾留生活の後遺症に苦しんでいた。顔は浮腫み立ち上がるのも辛そうであるという。
シム記者はBさんと何度か接触を続けた後、個人情報の秘匿を条件にインタビューを申し込んだ。北朝鮮でも悪名高い甑山教化所の実態を外国に伝えることを前提に話をしてほしいと提案したのである。Bさんは撮影は拒んだが証言を録音をすることを快諾してインタビューに応じてくれた。北朝鮮国内で、このように取材対象者の許諾を得てインタビューが実現するのは極めて稀なことである。
Bさん自身は中国に脱北して逮捕送還されて来たわけではないが、甑山教化所で同じ管理課に収容されていた人たちのほとんどは、中国から送還されて来た女性たちであった。つまり、Bさんが甑山教化所で体験したこと、目撃したことは、すなわち脱北難民たちのそれなのである。
Bさんの証言は、Aさんの証言と重複する部分も多いのだが、それもあえて省略せずに掲載する。二人の証言に共通点が多いということは、これまでベールに包まれてきた甑山教化所の実態が、具体的かつ確度の高い情報として私たちの目の前に現れたことを意味する。北朝鮮の人権の闇を照射する貴重な証言である。
Bさんは、二〇〇八年×月に甑山教化所を出所した三〇代の女性。シム記者は海外での公開を前提に、彼女に録音の許諾を得てインタビューした。Bさんは無許可で医療行為をしたとして逮捕され甑山教化所に収監された。
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