何も持たない農民から取り上げざるを得ない
問:農場を管理する指導員などの幹部が農民たちから恨みを買ったりしませんか?
答:それはそうですよ。でも彼らは「上からやれと言われた通りにやっただけだ」と言うんです。そうやって自分の責任を上部になすりつけて、その上部もまた上のせいにして...農場の幹部たちも、その上の里(北朝鮮における最小の行政単位。郡に属する)の幹部たちも、なんとか自分の首はつないでいかなくてはならないわけです。上部からの指示があると、自分が生き延びるためには従順になるしかない。今の地位が無くなれば生きていけなくなるわけですから。
それでもこういった立場の人たち、つまり取り上げる側も泣くんですよ。私の手首をこう握ってね。取り上げたらもう、食べるものが残らない人たちから、それでも取り上げなければならない、飢えさせるのが分かっていながらそうしなければならないのが、どんな気持ちだか分かりますか、胸が張り裂ける想いだと慟哭するのです。
ある農場の幹部は、「もう我慢できない。農民たちになんの罪があって、33、34種類もの徴発をしなければならないんだ」と涙を流し震えながら話してくれたことがあります。でもそういう時、私はこう言います。「まだその気持ちを大っぴらにしてはならない」と。
問:そのような状況についてどう思いますか?
答:正直に言って、今の北朝鮮は倭政(ウェジョン、日本による朝鮮半島の植民統治時代)の時よりもひどいといっても過言ではないと思います。あの時は国を獲られて、搾取され略奪されましたけれども、それでも生きる道を探してどこへでも行けたでしょう?それが今ではどこにも行けない。
「死ぬならその場で死ね」ということですから。農場員は代々農場員として死ね、というのです。ここ(中国)だってお金さえあればどこへでも行けるでしょう?自由を抑えつけるような体制では何も変わらない、人々の暮らしが良くなるのは、今の体制下では不可能だと思います。口には出しませんが、私のように思っている人は多いですよ。
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