無理なデノミ措置は北朝鮮全土にハイパーインフレを巻き起こした。ひどいときは、数時間おきに物価が上昇するほどで、食糧入手に困難をきたす人が増え、地方を中心に餓死者が発生する事態となった。
通貨ウォンの信頼は低下し、人々は先を争って外貨を求めるようになった。
このような状況に対し政府は、12月に「2010年1月1日から外貨の使用を全て禁止する」という布告を発表する。
「国家の全機関、企業所、社会協同団体(武力及び特殊機関を含む)、公民および外国人」は外貨の使用、流通、両替を行ってはならないとし、違反したものに対しては「厳重性の度合により死刑も含み法的に厳格に処罰する」と、死刑をちらつかせて、外貨使用の蔓延を食い止める強い決意をのぞかせた。
だが、いつまた価値がひっくり返るかもしれない自国通貨ウォンよりも、価値が安定しているドルや人民元などの外貨を信用する傾向には、全く歯止めをかけることができなかった。
アジアプレスが8月下旬に中国でインタビューを行った北朝鮮の労働党幹部は
「死刑をちらつかせる布告文をあちこちに貼り出しても、北朝鮮の人々はまったく涼しい顔です。"外貨を今、私が使えなくても、私の子どものためにとっておくし、子どもがだめなら孫のためにとっておく"と、人民たちは言ってるんですから」
と内部の雰囲気を語ってくれた。
死刑という厳罰にも住民たちが言うこと聞かない現状は、貨幣交換という最悪の失策をした政府への信頼が、もうこれ以上無いというところまで失墜していることに加え、外貨なしには経済が回っていかないという現実があること、そして金正日政権が弱体化していることを物語っていると言えよう。(李鎮洙)
1 2