拘留されている人々を働かせることが、権力機関の大きな利権になっていることは問題である。まさに現代の奴隷労働だと言ってもいい。当然、その利権を維持するためには、人員を常に〝補充〟する必要が生じる。つまり〝犯罪者〟を、ずっと新たに作りだしていかねばならないのである。これこそが、北朝鮮の各種拘留・収容施設において人権蹂躙を生み出す基本構造なのだ。
甑山教化所における利権は、保安省(警察)が握っている。その源泉は、教化刑に服する者と労働鍛錬刑に服する者を使役することにある。この目的のために甑山に絶えず人を送り込むのにもっとも都合がいいのが、警察の恣意的判断によって、社会秩序や風紀に反した〝罪人〟を作り出すしくみなのだ。
現在は形式上裁判に付すことになったとはいえ、社会秩序違反の軽微な罪を犯した者に、どのような判決を下すかは、北朝鮮では権力機関の思いのままである。〇四年に刑法が改定されて労働鍛錬刑が新設されたのは、国際社会の人権批判をかわしつつ甑山教化所に労働力を確保し続けるのが目的だったという見方ができるだろう。
脱北難民というのは、基本的には人間らしく生きようと国境を越えた人たちである。だが北朝鮮政府は、中国から逮捕送還されてきた人たちを、金正日の政治と民族に反逆した者として扱っている。脱北難民は、金正日政権の下で民衆がまともに食べることもできず、自由もないことの生き証人に他ならない。
また外部世界と繋がり、国の内と外の情報を流通させる、金正日政権にとって危険な存在でもある。「労働鍛錬刑に基づく甑山教化所送り」という制度の目的は、民衆が逃げ出すことを阻止するための見せしめと、権力機関の利権の源泉たる労働力を恒常的に確保することなのだろう。
(おわり)
《参考文献》
朝鮮民主主義人民共和国刑法
主体七九(一九九〇)年一二月一五日最高人民会議常設会議決定第六号として採択。
主体九三(二〇〇四)年四月二九日最高人民会議常任委員会政令四三二号として修正補充。
第二節 刑罰
第二七条(刑罰の種類)
刑罰の種類は次の通りである。
一、死刑 二、無期労働教化刑 三、有期労働教化刑 四、労働鍛練刑 五、選挙権剥奪刑 六、財産没収刑 七、資格剥奪刑 八、資格停止刑
第三一条(労働鍛練刑)
労働鍛練刑は犯罪者を一定の場所に送って労働をさせる方法で執行する。労働鍛練刑執行期間は、公民の基本権利は保障される。
労働鍛練刑期間は六ヶ月から二年までとする。犯罪を併合したり合算する場合でも、労働鍛練刑期間は二年を越えることはできない。犯罪者が拘束されている期間一日を労働鍛練刑期間二日に計算する。
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