この時の公式の地位は、国家主席、労働党中央委員会総書記で(国と党のトップ)、人民軍最高司令官のポストは、生前の91年に金正日に譲っている。
これら公式の地位は通常国家にもあるもので、二段重ね国家の北朝鮮にとって重要なのは「唯一の首領」という地位だ。
北朝鮮では金日成以外に首領はおらず、唯ひとり、金日成のみが国家と社会を指導するという「唯一指導体系」が70年代に確立した。政治ライバルの出現を事前に防ぐためである。
「唯一指導体系」は法律を超えて優先される「掟」のようなもので、社会全体が、いつ何時も金日成首領を絶対化しなければならないと規定している。北朝鮮が「首領絶対制」と評される所以である。
金日成が死んでも、金正日は首領にならなかった。今でも北朝鮮のあちこちに「金日成首領様は永遠にわれわれとともにおられる」というスローガンが掲げられているとおり、金日成は北朝鮮で永遠に「唯一の首領」とされているのである。
それでは金正日は?というと、今いるのは、「唯一の指導者」というポジションである。これはいわば「首領の代理人」だ。彼以外に、金日成に代わって国と社会を指導することはできないことが「掟」になっている。
さて肝心なのは、ポスト金正日体制において「首領絶対制」をどうするつもりなのかである。
もし金正恩が権力の世襲過程に入って行くとしたら、二段重ね国家の上部構造である「首領絶対制」において、彼をいかなる地位に就かせるのだろうか?
北朝鮮という特殊な二段重ね国家では、党や軍での地位よりも、むしろこの「首領絶対制」における地位の方が重要である。「首領の代理人の代理人」では、金日成との関係が薄すぎてあまりに弱い。
党代表者会までに明らかになったのは、金正恩が党と軍の公式のポジションを得たということであって、肝心の「首領絶対制」における地位がどうなるかは、まだ不明なのである。
今後、後継者問題で最も注目すべきポイントは、この「首領絶対制」を北朝鮮政権が続けていくのか、変えていくのかという点である。(石丸次郎)
(続く)