両親と死別したコチェビ(ホームレス)の兄妹。15歳と13歳だ。炭鉱から横流しされた石炭を運ぶなどの雑用をして生活費を稼ぎ、生き抜いている。2009年8月 撮影 金東哲(キム・ドンチョル)
両親と死別したコチェビ(ホームレス)の兄妹。15歳と13歳だ。炭鉱から横流しされた石炭を運ぶなどの雑用をして生活費を稼ぎ、生き抜いている。2009年8月 撮影 金東哲(キム・ドンチョル)

 

灰色の社会はいつまで続くのか
白黒画面こそがふさわしい。北朝鮮が流す党代表者会の映像を見てそう思った。金正日に拍手を送る三男金正恩(キム・ジョンウン)をはじめとする朝鮮労働党の「代表者」たち。なんという古色蒼然たる眺め、そしてなんという非現実感。ここ大阪から1000キロほどしか離れていない土地で起きている出来事とはにわかに信じがたい。

これまで中国、韓国で数百人の北朝鮮の人々に会ってきた。金儲けになると騙され中国の農村に売られた女性。韓国政府が高く買い取ってくれるという噂を聞いて、銃弾を体に巻き付け軍事境界線を越えてきた軍人。
脱北し韓国で政治犯収容所の様子を語ったため、当局に北に残った家族を一網打尽にされた男性。生活苦からなんとか脱しようと、山道を一週間以上も歩き、中国の農村に来たものの、取締りの厳しさに身動きの取れなくなった20代の若者...一人一人の苦渋に満ちた顔が目に浮かぶ。

また思い浮かぶのは、アジアプレスの北朝鮮の内部記者たちが撮影した映像の中にある、北朝鮮の人たちの顔、顔、顔...。家を失い、保護してくれる人も無く、寒い夜に道端に固まり座って暖を取るコチェビ(ホームレス)の少年たち。やせこけた育ち盛りの年代の兵士たち。気を抜くと「死」が隣に迫ってくる苦しい中で何とか生き抜いている険しい顔だ。

後継者が出てくる、という噂は昨年の初め頃から流されていた。それと同時に、後継者について庶民がどう思っているのか、という話も、北朝鮮中から少ないながらも伝わってきた。

そうした一つが「生きていくのに精一杯で後継者問題なんて関係ない」「北朝鮮を改革・開放してくれる人がトップになってほしい」という声だ。
中国で直接取材して聞き、世界に発信してきた庶民の気持ちだ。金正日の施政17年は失敗そのものであり、改革・開放こそが生きる道だというのは北朝鮮の住民のあいだでは今や共通認識だ。
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