前回に続き、ある道の党機関の政治部門で働く労働党幹部、李さん(仮名、50代後半)のインタビューを掲載する。李さんは日ごろから農村をはじめ、道内を巡回しながら党中央からの政治的指導を北朝鮮の人々に「講演」するのが仕事だという。そのため、党の方針(上層部)にも人々の暮らし(現場)にも詳しい。インタビューは党代表者会前の8月に中国で行われた。
5回目の今回は、軍や党(朝鮮労働党)、保衛部などが複雑に絡みあっている北朝鮮の政治システムの弊害を明らかにする。
軍よりも党...先軍政治も止めるだろう
問:北朝鮮では「先軍政治」、軍を全面に押し出した政治を行っていますよね。すると今は党よりも軍の方が強いのですか?
答:最近の金正日の発言の中に「われわれが先軍政治を行うといって、人々が党の領導(編注:指導)を離れたと思われがちだが、先軍政治というのは徹底的に党の領導の下に行われることになっているので、党を弱らせてはならない」というものがあります。
国防委員会(注1)の委員たちもみな、金正日の側近たちですから、力があるんです。その金正日がまた「国防委員会の力が強くなりすぎてはいけない」と、国防委員会も党の領導を受けるようにしたのです。「党の下につけ」とね。
またこれも最近のことですが、「国防委員会を前面に出しすぎたから、党の権威が弱まった」と金正日が言ったというのです。国防委員会優先になり、その結果、党の組織ががたがたに揺れたのです。金正日は党の総書記も兼ねていますが、党の政治局の委員も党中央委員会の書記局の書記も今や二、三人しかいないでしょう。
国家を指導すべき党がこれではいけない、組織を整備する必要があるというのが、今回の党代表者会開催の理由の一つです。(編注:党代表者会で、実際に政治局委員は3人から12人に、書記局の書記は5人から11人に再編された)。
問:先軍政治というので軍がもっとも重要ではないかと思っていました。
答:今ではその先軍政治を止めようという動きがあります。これもおそらく近い時期に...今回の9月の党代表者会と関連して何かしらの決定があると私は見ています。
問:それでは今回の党代表者会で金正恩が上がってくる場合、党の中の重要な地位に就くと思いますか?
答:そうなるでしょう。北朝鮮において党というのは、他の機関と比べはるかにパワーがあるんです。ある道を例にとってみた場合、党のトップである道責任書記は、、同じ道の人民委員会(地方政府)の委員長と同じくらいの地位にも関わらず、人民委員長を「このバカ野郎」呼ばわりするくらいですから。それほど強いのです。
(注1 国防委員会:1972年に中央人民委員会内に設置、1990年に独立機関となる。1993年から金正日が委員長を務めており、軍を指導し、軍に命令を下す役割を果たしている。2009年の憲法改正により、その権限が大幅に拡大された)
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