保守勢力の存在
問:保守勢力とはどのような人たちなのでしょうか。
答:歳を取った、(朝鮮)戦争の経験を持つ「闘士」たちです。そうした人たちが「改革・開放をしてはならない」と主張しています。経済開放は金日成の示した道である社会主義を滅ぼすことになると、反対するのです。
問:そうした保守勢力は多いのですか?
答:そう多くはありません。
問:それでも影響力があるのですか?
答:私が中国に来る前に聞いた話によると、それでも金正日は保守勢力の話に耳を傾け、重要なポストに座らせているそうです。なぜかというと、今のような経済状況が続くほど、開放しようという勢力が強くなり、金正日自身の政治的な立場が危なくなるからというのです。その点、保守勢力が周りにいれば、金正日の立場も安泰でしょうから、革命の先輩を尊重し、重用するとしているのです。彼らは死ぬまで忠誠を誓うでしょうし、保守勢力同士でまとまっても金正日にとって怖い存在ではないでしょう。北ではそんな政治を行っているのです。
問:ひどい政治ですね。変革のための画期的な政策が必要なのに、逆にそれを封じ込めるなんて。
答:中国で会った人々は、まるで跡継ぎの三男(金正恩を指す)が北朝鮮に変革をもたらすといった期待をしているようですが...そんなものは...。
問:金正恩が権力の座に付いても何の変化もないと思いますか?
答:あの根っこ(一族支配)から新しい何かが出てくると思いますか?私のような小人には想像できません。あなたも1か月のあいだでも、北朝鮮で暮らしてみれば少しは分かると思います。聞いていたよりもずっと暗い社会だ、ということが。
中国と北朝鮮の関係について
問:いくつか質問したいと思います。あなたの周りのエリートたちは中国についてどう思っていますか?中国からたくさんの物資が北朝鮮に入ってきているし、国際政治においても、中国は北朝鮮にとっては無くてはならない存在です。「このままでは北朝鮮は中国の属国のようになるのではないか?」という声は聞かれますか?
答:北朝鮮では「チュチェ(主体)」という表現をよく使います。自力更生する、大国に隷属しないで一生懸命に生きていくということです。今回(8月)の金正日の訪中後、ある党の人間が「中国が天安艦事件と関連して、国連の北朝鮮に対する制裁に同調しなかった。北朝鮮の顔色を世界の大国がうかがっている」と自信を深めた様子で語っていました。
でも実際はどうですか?生活に必要な物資の90%は中国から入ってきてます。北の人民は昨年の「貨幣交換」(デノミ措置)の際、こんな風に話していました。「見ろ、いくら『チュチェ(主体)』といっても、わが国では何ひとつ満足に生産できないから、爪楊枝まで中国のものだ」とね。それほどまでに中国の影響力は大きいのですよ。金日成主席生前の「経済的な隷属は政治的な隷属だ」という言葉が思い出されます。
にもかかわらず、こうした現状に目を背けて、中国から帰ってきた金正日がしたことといったら、現地で撮影した写真を極上の紙に印刷し、画報を作って企業所組織ごとに配っている始末です。わが国には紙が足らず、満足な本も作れないというのにですよ。その画報を見て知人と話し合ったものです。「それで、中国に行ってきた成果は何なんだ?」とね。
それならば、同じ民族である韓国ともっと上手くやって、譲歩もしながらお互い協力していくほうがいいと思いますね。
第一、自身のことを「馬鹿」だと認識できていないのです、今の北朝鮮は。せめて自分が愚かだということでも自覚できれば、その時から「馬鹿」では無くなるのでしょうが...そのために多くの人民が泣いています。
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