1 寺洞(サドン)区域[11]
2008年12月取材
取材:リ・ソンヒ/解説:石丸次郎/整理:リ・ジンス

■美林(ミリム)洞[VI]
◆市場の様子[三]土手の上

土手の上では、露天の食堂がずらりと並んでいる。七輪にタライをのせて豆腐鍋を出す店が多い。酒も売る。
客を待つ女性たちは皆、分厚い綿入れやジャンパーに身を包んでいる。平壌の12月は最低気温が零下10℃を下回る日も多い。
土手からは美林閘門が見える。西海(ソヘ)閘門、烽火(ポンファ)閘門と共に北朝鮮の三大閘門 に数えられる。

 

九〇年代後半の社会混乱の中で、平壌でも多くの餓死者が発生した。その後も今日まで経済の復旧は成らず、最も優待される平壌ですら食糧配給は遅配欠配が日常茶飯事である。政府の言うことを聞いて配給だけを待っていたのでは飢え死にしてしまう。そんな中で平壌市民たちも、めいめいが創意工夫して商売に立ちあがった。

美林洞の寒空の下で、質素な防寒着姿で地べたに座ったり立ったりしたまま商売をしている女性たちを「貧しく可哀そう」な人たちだと見ると、北朝鮮社会を見誤ることになる。彼女たちは統制が厳しい平壌にあって、経済的に自立して暮らしていくことができる唯一の方法である商売を、しんどいながらも喜んでやっているのだ。

それは、働けば働いただけ実入りが増えるからであり、商売こそが豊かになれる唯一のチャンスだからだ。彼女たちの働く姿は、一定の「経済活動の自由」を勝ち取って懸命に生きている姿だと捉えるべきだろう。
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