さて、わがニッポンは?
この二年ほど、外務省や内閣府などの北朝鮮担当の官僚たちと意見交換をする機会が何度かあったのだが、驚いたのは、どの官僚も政府の無策を嘆くばかりであったことだ。原因はこの五年間で四度も政権が交代したことにある。

「政権発足の度、選挙の度に『北朝鮮には毅然と対応する』というフレーズは出てくるものの、北朝鮮とどう向き合っていくのか、拉致問題をどうやって前進させていくのか、政治家は誰も中長期的なヒジョンを持っていない。働きたくても働きようがない」
外務省の官僚の一人の言葉である。拉致問題ひとつとっても、五年という時間は無為に過ぎてしまって、何一つ前進させられないまま被害者か家族の齢が重ねられてしまった。ずっと場当たりで来てしまったというそしりは免れないだろう。

もちろん外交には相手がある。一義的には、拉致問題で誠意を見せず、国民に困窮を強いながら核兵器を振り回して東アジアを危険に巻き込む金正日政権に問題があるのは言うまでもない。
だがそれでも、日本も周辺国も、この難儀極まりない隣国と付き合っていかなければならない。進めなければならない懸案と課題があるからだ。
それは言うまでもなく拉致問題、核・ミサイル問題であり、植民地支配の精算、帰還事業で北朝鮮に渡った在日朝鮮人と日本人配偶者の日本との自由往来の問題などである。

放っておいても、制裁だけを強めても拉致被害者が帰ってくることはなかった。だからこれは交渉していく他ない。獲得目標を定め、それを実現するために戦略を練り、交渉して前進させていかなければならない。
さらに重要なのは、やはり北朝鮮政権の混乱に対する準備である。

金総書記が死亡、あるいは執務不能状態に陥った場合、内戦勃発や突発的な体制瓦解を含め、混乱が発生する可能性は、現実の問題としていつでも起こりうると筆者は見ている。
菅政権には、急ぎ、対北朝鮮政策の中長期的ビジョンの策定が求められる。

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