◇砲撃事件の背景を考える(2) 対外関係
なぜ、北朝鮮は延坪島砲撃事件を引き起こしたのか。内的要因、対外関係要因の両面を見なければ、その動機と理由、目的は解けない。まず対外関係の要因を考えてみたい。
対外関係要因として、米国を交渉に引き出すための脅し、緊張を高めて韓国内を揺さぶるため、などの分析が専門家の間から出されている。
もちろん、それらは的を得た見立てだと考えるが、他に重要な要素として、朝鮮半島の緊張に中国を巻き込みたいという北朝鮮の戦略がある、という点を指摘しておきたい。
朝鮮半島の西側の黄海は、中国にとっては「前庭」である。一方、この海域は、60年間、南北朝鮮の対峙の最前線であり、韓米が艦隊を動員して軍事演習を繰り返してきたエリアでもある。
中米の海軍力に圧倒的な差があった時代は、このエリアのヘゲモニーは韓米側にあった。冷戦が終わり、緊張が緩和されていく一方で、経済力をつけた中国は、海軍力増強にひた走る。
一方の米国は、駐韓部隊の縮小整理を進めてきた。黄海におけるパワーバランスは、この20年で大きく変わったと言ってよい。
「前庭」である黄海での緊張の高まりを、中国はもちろん望まない。
南北の対立がこの海域で激化した場合、同盟関係にある米国は、当然韓国側につく。冷戦終了後、中国は北朝鮮一辺倒の半島政策から脱皮し、韓国とも円満に付き合っていく道を選択したが、米韓がこのエリアで好き勝手に振る舞うことを見過ごすことはできはできない。
李明博政権とオバマ政権の登場後、日韓米の対北朝鮮協調体制は非常に強固になり、一種の北朝鮮包囲網が形成されている。金正日政権は、この3か国の間にくさびを打ち込んで分断したいたところだったが、対韓、対米関係において主導権を取ることができず、状況を動かすことは叶わなかった。
そこで北朝鮮は、あえて中国の「前庭」で緊張した局面を作り出す戦略を取るようになった。南北間の軍艦同士が銃撃戦をする程度の「小競り合い」では弱い。米国が動かざるを得ないような重大な事件を引き起こすことで、今度は中国を「前庭の緊張」に引っ張り出す戦略だ。
韓米が強硬な態度に出れば出るほど、中国は「前庭」での軍事プレゼンス維持のために、北朝鮮に肩入れせざるを得なくなるのだ。
3月に発生した天安艦撃沈事件は、まさにこのような構図のもとに事態が進んだ。「韓米VS朝中」の対立構造を黄海で作りだし、いわば「ミニ冷戦」構造を醸成しようというのが、北朝鮮の目論見のひとつだろう。
この度の砲撃事件は、国連安保理に回付されて行く可能性がある。そうなると、北朝鮮に一方的に非があることが明々白々な今回の砲撃事件に対し、中国はどのような態度を取るだろうか。
中国は、北朝鮮によって踏み絵を踏まされることになる。(石丸次郎)