○過去10数年間の北朝鮮社会の変化
アジアプレスがこれまで行ってきた北朝鮮内部の取材で得られた情報を分析すると、北朝鮮の庶民たちの多くは、少なくとも2007年まではジャンマダンと呼ばれる市場での経済活動により、最低限の生活を維持できていたと判断できる。政治的自由はもちろん、保健福祉の分野などにおいても多分に劣悪な環境は続いていたが、90年代末のように飢えで多くの死者が出るというような状況からは抜け出し、なんとか毎日を生きていけるようにはなっていた。

もちろん、北朝鮮の政府が庶民の市場活動を野放図に容認していたわけではない。市場の権益を国家機関が独占しようと、あの手この手で市場に介入・圧力をかけていた。だが、国家経済が破綻しているなか、軍の幹部や官僚、そして農民まで、ほとんで全ての住民が市場活動をたよって生きていくしかない状況であった。

このような生活相の変化、すなわち国家からの配給に頼らず、自らの力で生き抜いていくことにより、北朝鮮住民の心理には、国民を満足に食べさせることもできない金正日政権からの独立心が急速に芽生え、定着していった。これは過去10数年の北朝鮮社会における最大の変化のひとつであったのは間違いない。

一方で、外国からの援助に群がる官僚や当局関係者のあいだは、特に韓国に対する依存が広がっていった。自由主義体制の豊かさを否応なく知ることになったのだ。そしてそれは幹部たちのあいだにも、北朝鮮の社会と経済の今後のあり方として「改革開放という変化」の必要性を刻印する効果をもたらしていた。この点は北朝鮮幹部などのインタビューに接することで筆者も確信している。

例えば今年8月、とある道の労働党幹部は「農民だけでなく、農民たちをまとめる作業班長、そして農場全体を管理する管理委員長までもみな、口をそろえて『(経済)開放しなければならないのに』と言っています」と語った。
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