同じく10/4号では「今回脳卒中で倒れた男も『ダミー正日ということになります』「『金正日はすでに死んでいる』という可能性も視野に入れて外交戦略を立てるべきです」と語り、10以上の海外メディアから取材を受けたと自慢しているのである。ここまで来ると、世間を欺きデマをばら撒く行為だというしかない。
重村教授は、この10数年でもっともメディア露出の多かった朝鮮半島専門家である。机上の学問ではなく、毎日新聞のソウル、ワシントンの特派員を務めて培った知識と人脈によって、朝鮮問題を半島の内と外から語れることができる稀な存在だった。
94年の金日成主席死去後、「北朝鮮崩壊せず」(1996年光文社)著して、安易な北朝鮮崩壊論を批判、冷静で客観的な視点が評価を高めた。
しかし2005年頃から、重村教授の情報収集能力と分析力の低下を指摘する声が、メディアや半島ウォッチャーの間で大きくなっていた。
06年10月の北朝鮮の核実験を「2、3年はやらない」とテレビで公言していたが、外した。その数日後には、核実験をやった理由を、その年夏に水害で200 万トンの作物が流されて食糧危機に陥り、援助欲しさに核実験をやったという趣旨の、トンチンカンな分析をテレビで連発。専門家の間で「ハズシの重村センセ」と陰口されるほどだった。
それでも、短いフレーズで歯切れよくコメントする重村教授を、民放は重用し続けた。テレビの側に、コメンテーターとしての中身を検証する能力と姿勢が欠けていたからに他ならない。
重村教授の姿を、最近、とんとテレビ・新聞で見ることがなくなった。もう、おそらくこれからも登場することはほとんどないだろう。「金正日死亡説、ダミー説」が致命傷になったことは言うまでもない。
朝鮮半島研究の「ニッポン一」の権威、小此木政夫慶応大教授もトンデモ発言をしている。重村教授が物議を醸した同じ2008年9月のこと。
金総書記が長く姿を現さず、重大行事にも出て来なかったことに対し、「姿を消すことで世界中の注目を集めているという印象を持つ。
北朝鮮にとっては米国との核問題は国の存亡を賭けた非常に重要な問題。(テロ支援国指定解除の遅延が)深刻な問題なんだと伝えるためには、軍事パレードに出てきて手を振るよりも、いなくなる方がずっと効果的だ」 と、「健康悪化を偽装している」という説を披露した(9月27日読売テレビ「ウェークアップ」での発言)。
その後「激やせ写真」が世界に公開されて、小此木教授の「偽装説」は一蹴されることになるのだが、寡聞にもハズレに対する弁明を聞かない。
なぜ、こういうことになるのか?僭越ながら、日本の学者先生の多くは(すべてではない)、北朝鮮内部のことがあまり分かっておられないと申し上げるしかない。
今後、北朝鮮情勢は極めて重大な局面に入っていく可能性が高い。北朝鮮の現状をどう評価するのか、専門家の責任は重みを増す。多様な見解はあってしかるべきだが、トンチンカンと無責任は困る。そのような発言については、専門家/非専門家を問わず、実名で具体的に批判を展開していこうと思う。
私も、朝鮮半島ウォッチャーの端くれとして、覚悟して仕事に当たるつもりだ。
日本の北朝鮮研究の現状については、追って続きを書いていきたい。(石丸次郎)