◇労働者ではなくお抱え俳優に酒を注ぐ姿に失望
今年9月の朝鮮労働党代表者会で、党中央軍事委員会副委員長に任命され、金正日総書記の後継者に内定した金正恩氏に対し、北朝鮮の住民たちの中から「庶民の困窮をまったくわかっていない」という批判の声が高まっていることが、北朝鮮住民へのインタビューで続々と明らかになっている。

生活苦から12月上旬に中国に渡ってきた咸鏡北道出身の40代女性は、金正恩氏の評判を問うアジアプレスの取材に、
「反発が強いです。表立っては言えないが、気のおけない人たちが集まれば批判ばかりしている状況です」
と答え、自身の考えを次のように語った。

「党代表者会のすぐあとの10月初め、金正恩が平壌に建てられた新しい劇場を将軍様と一緒に現地指導し、芸術家と俳優にプレゼントした高層マンションを訪問するという報道番組をテレビで見ました。

まず将軍様が、その後に息子(金正恩氏)が俳優たちにお酒をふるまう場面があったんですが、それを見て、ああ、この国の後継者になろうかという人物が、まず初めにする仕事が、自分を讃えてくれるお抱えの俳優を訪ねて酒を注ぐことなのかと、幻滅しました。労働者の家々を回って、ご苦労様とねぎらって酒を注いだら、庶民はどれだけ喜んだでしょうか。正直、とても嫌悪感を覚えました」

今年10月8日、新築された平壌(ピョンヤン)の国立演劇劇場を現地指導した際の金正恩氏。俳優たちに与えた最新式の高層マンションを父である金正日総書記とともに訪問し、俳優たちに酒をふるまっている。(朝鮮中央テレビより)
今年10月8日、新築された平壌(ピョンヤン)の国立演劇劇場を現地指導した際の金正恩氏。俳優たちに与えた最新式の高層マンションを父である金正日総書記とともに訪問し、俳優たちに酒をふるまっている。(朝鮮中央テレビより)

 

こうした金正恩氏登場への反発は、庶民の持つ金正日総書記への不満とも相通じる点がある。
この女性はさらに、「現地指導」と呼ばれる、金正日総書記による軍や企業所、農場への視察訪問は欺まんであり、それを受け継ぐであろう金正恩氏への想いを語った。

「金日成主席(1994年死亡)は、現地指導の際には通りかかった農家を突然に訪ねたりして、人民の暮らしを知ろうとしました。それが将軍様(金正日総書記)は訪問を予め通告するので、叱責を恐れる現地の幹部たちは、問題なく上手くいっていることをアピールするために、あちこちから物や人をかき集めて、徹底的に事前準備をします。
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