労働者ではなくお抱え俳優に酒を注ぐ姿に失望
今年9月の朝鮮労働党代表者会で、党中央軍事委員会副委員長に任命され、金正日総書記の後継者に内定した金正恩氏に対し、北朝鮮の住民たちの中から「庶民の困窮をまったくわかっていない」という批判の声が高まっていることが、北朝鮮住民へのインタビューで続々と明らかになっている。
生活苦から12月上旬に中国に渡ってきた咸鏡北道出身の40代の女性は、金正恩氏の評判を問うアジアプレスの取材に、
「反発が強いです。表立っては言えないが、気のおけない人たちが集まれば批判ばかりしている状況です」
と答え、自身の考えを次のように語った。
「党代表者会のすぐあとの10月初め、金正恩が平壌に建てられた新しい劇場を将軍様(金正日氏)と一緒に現地指導し、芸術家と俳優にプレゼントした高層マンションを訪問するという報道番組をテレビで見ました。まず将軍様が、その後に息子(金正恩氏)が俳優たちにお酒をふるまう場面があったんですが、それを見て、ああ、この国の後継者になろうかという人物が、まず初めにする仕事が、自分を讃えてくれるお抱えの俳優を訪ねて酒を注ぐことなのかと、幻滅しました。
労働者の家々を回って、ご苦労様と酒を注いでねぎらってたら、庶民はどれだけ喜んだでしょうか。正直、とても嫌悪感を覚えました」
同じく咸鏡北道に住むアジアプレスのイム・チョミ通信員は、北朝鮮内部の声について、
「金正恩が『金正日将軍の安全のためならば、たとえ千万の金を使った建物であろうと、取り除かなくてはならない』と指示したと言うのです。それを聞いた人々は、『こんな貧乏な国で何を勘違いしているのか。あれ(金正恩)は親父よりもっとひどいんじゃないのか。あれの下では未来が無い』などと話しています」
と、電話で伝えてきた。
北朝鮮の庶民は、昨年11月30日に政府が断行したデノミ措置(通貨ウォンを100分の1に切り下げ)による極度の経済混乱の影響からいまだ抜け出すことができず、ぎりぎりの生活が続いている。
12月に入ってからは物価高騰が続いており、先行きに不安を感じている人が多いという。
金正恩氏の「公式デビュー」から2か月半が経ち、生活難に対する不満の矛先が金正恩氏に向き始めているものと思われる。
アジアプレスでは、北朝鮮国内に中国の携帯電話を送って内部情勢を取材している。
(中国延吉=パク・ヨンミン 整理・李鎮洙)