大村一朗 テヘランの風~経済大改革に挑むイラン 静観する市民(1) 2011/01/29
チュニジアでの政変が、エジプトやアルジェリアなど他のアラブ諸国に飛び火している。これらの国の騒乱は、長期に渡る独裁的な政権の存在と、ひどい経済状況が要因とされているが、すべてが当てはまるここイランでは、暴動への警戒はおろか、むしろ時勢に逆行するかのような大胆な経済改革が進められている。
昨年12月からイランでは、「補助金の目的明確化法」と呼ばれる経済改革法が施行されている。海外メディアで「補助金カット法」と呼ばれるもので、各種燃料や光熱費、パン等の価格を安く抑える為に政府が支出していた補助金を段階的に廃止し、その分を住宅、雇用等の問題や、新規開発プロジェクトに充てるというものだ。
イランではこれまで、政府補助金によって、ガソリン1ℓ当たりの値段が1000リアル(約8円)に抑えられていたが、昨年12月からの新価格では、月50ℓまでなら1ℓ当たり4000リアル(32円)、それ以上は7000リアル(56円)で購入しなければならない。この他、家庭用ガス、電気、水道料金が3、4倍に上がり、輸送用の軽油は8倍、工業用の重油に至っては20倍値上がりした。
イラン国民は長年、産油国の国民の特権として安価な燃料を享受してきた。わずかな距離でさえ乗り合いタクシーを利用し、家庭や企業では省エネの概念すら無かった。だが、そうした燃料費の安さは、政府が年度予算の4分の1に相当する約1000億ドルを補助金として投入した結果だ。イラン政府の発表では、イランのエネルギー消費量は世界平均の4倍という。
補助金カットによって国民に節約を促し、こうした異常消費を抑えることで増収を図ることは、政府の長年の課題だった。
燃料や光熱費の大幅な値上げに不安を訴える国民は多い。多くの人は2、3ヶ月分のガソリンを既に買いだめしている。テヘランの大学に通う女子学生(23)は、「それ以降はまともに自家用車も使えなくなるのでは」と不安を隠さない。音響機器を販売するフィルズィさん(45)は、「ガソリンに加え、光熱費まで一気に値上げされるのはつらい。個人には現金支給があるが、法人は対象外だ。どこも商品を値上げせざるを得ないだろう」と急激な物価上昇を懸念する。
(つづく)