今年の「新年共同社説」は凄い
さて、新年なので恒例の「共同社説」についても触れておかねばならない。
いや、これが凄い。内容が見事に空っぽなのである。
朝鮮新報ウェブ版に上がった一万一千字の「共同社説」に目を通したのだが、その無内容さは特筆もの。空虚な掛け声とスローガンが並ぶだけで、指針や方策に具体性がまったくない。この無内容さこそが、金正日政権の弱体化、体制の劣化を物語っているのだとつくづく思った。
細かく論評するのは、筆者にとっても読者にとっても時間の無駄とさえ思える。
5年ほど前の正月、「共同社説」の分析をしてなければと言って、北朝鮮政治に詳しい脱北者の韓正植(ハン・ジョンシク)さんに「アホか!」と言われたことがある。無内容な「共同社説」を熟読して分析を試みるなど時間の浪費。大意を掴めば充分だというのだ。
年々内容の劣化は続いていたのだが、今年のは特にひどい。そこで、今回は、無内容さの代表例として経済分野について、少しだけ言及しておきたいと思う。
「人民生活向上を最大の重大事、最高の闘争目標となし、実現を見届けるまで推し進めなければならない」
今年の「共同社説」には、この「人民生活の向上」という言葉が何度も出てくる。それは、すなわち、それほど生活状況が悪いことの反映だと見るべきである。
現在の北朝鮮民衆の暮らしはこの10年で最悪の状態にある。09年末に強行したデノミ措置(通貨ウォンを100分の1に切り下げ)の混乱によって、民衆が依拠してきた市場での商行為が大打撃を受けた。
「ホームレスや自殺者が大幅に増え、困窮を強いる政権に対する不満がこれまでになく高まっている」
と、北朝鮮内部の取材パートナーたちは伝えてきている。
「人民生活の向上」を何度も唱えるのは、これ以上の民心の離反はヤバイと政権が考えているからだろう。
さてそれでは、どうやって生活を向上させるのか。「共同社説」では、「軽工業の正常化」「軽工業革命」をやるのだと謳う。しかしどうやって?それは書かれていない。スローガンばかりである。
ここでいう軽工業とは、生活必需品の生産のこと。衣服、靴、食器、石鹸洗剤など、人民生活に欠かさせない物資をしっかり生産せよ、ということなのだが、ジャンマダン(市場)にはこれら軽工業品は山と積まれており「物不足」ではけっしてない。
だが、これら北朝鮮国内で流通している衣類や雑貨などの日用軽工業品は、その大半が中国製品なのである。
なぜそうなったのか?どうやって中国製品と勝負するのか?それは「共同社説」には書かれていない。
年明けの5日、北朝鮮北部に住む女性から電話があった。家庭の主婦の組織である女性同盟で「共同社説」の暗唱競争をやらせているという。
抽象的なお題目をいくら上手に言えるようになっても、「軽工業革命」も起こらないし、生活も向上しない。経済問題を動員政治の手法で解決しようとして失敗した過去の過ちは何も総括されていないようだ。
「共同社説」から読み取れるのは、自己変革を拒否した北朝鮮政権が、今年も衰弱を続けていくだろうということである。
(敬称略)
※北朝鮮経済が転落した大きな原因のひとつに「主体(チュチェ)」工業の確立という金日成の過ちがある。その代表例が「順川ビナロン」工場の破綻なのだが、内部記者キム・ドンチョルの現場潜入取材が、アジアプレスの以下のページで特集を読むことができます。