故金日成主席をあしらった最高額紙幣の5000ウォン札。日本円で約160円である。2009年11月のデノミ措置を機に新札に切り替えられた。(2011年3月 両江道にて崔敬玉氏撮影),アジアプレス
故金日成主席をあしらった最高額紙幣の5000ウォン札。日本円で約160円である。2009年11月のデノミ措置を機に新札に切り替えられた。(2011年3月 両江道にて崔敬玉氏撮影),アジアプレス

 

◇最高人民会議が予算報告 韓国発表は実態反映せず

4月7日に平壌で開催された最高人民会議(国会にあたる)で、2011年度の予算編成が発表された。
7日付け朝鮮中央通信、8日付け労働新聞(ともに電子版)によると、編成された予算は昨年に比べて歳入が7.5%、歳出は8.9%増加、うち国防費の比率は15.8%などで、昨年比増減率と割合だけでしか明らかにされず、金額は示されていない。

韓国統一部は8日、昨年の予算額に今回公表された増減率を当てはめて今年の予算額を推定、報道資料として公開した。それによると、2011年度の予算総額は5677億朝鮮ウォンである。

また韓国統一部は、この予算総額を米ドル換算して57億3000万ドルとしているが、これは現状をまったく反映しておらず問題の多い数値だ。1米ドルを99.1朝鮮ウォンとして換算しているが、これは北朝鮮政府が公表している固定相場に基づくもので、国内の実態経済と大きくかけ離れたものだからだ。

北朝鮮国内で取引されている対ドル実勢レートは、3月末から4月初旬にかけて、1米ドル=2650ウォン程度で推移してる。これは、アジアプレスが北朝鮮各地の取材パートナーたちから受ける定期報告による。

また現在、平壌の朝鮮貿易銀行には毎週定期的に為替レート表が貼り出されており、全国の闇両替商はその数値を元に米ドルや日本円、中国元を売買している。貿易銀行の発表する為替レートと地方の闇両替商のレートには大きな差はないという(平安南道平城市、両江道恵山市の取材協力者)。こうしたことから北朝鮮の実態経済はすでに「変動相場制」を採用していると言える。

現実の経済活動を反映したこの数値をもとに計算すると、今回発表された北朝鮮の国家予算は2億1423万ドル。日本円にすると182億円程度ということになる。
統一部が発表した北朝鮮予算「57億3000万ドル」という数字は、既に聯合通信などを通じて世界に配信されており、間違った認識が拡散してしまうおそれがある。数字の取り扱いには要注意だ。

もっとも、北朝鮮政府が発表する国家予算自体が、実態とかけ離れた無意味なものである。各部署から上がってきた机上の数字(しかも大きく水増したされたもの)を足し算しただけという指摘が、以前から北朝鮮研究者や脱北者からなされてきた。

毎年4月に発表される国家予算の分析は、配分の傾向などを参考にする程度にとどめた方がよいだろう。
【石丸次郎】

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