平壌を覗いただけでは実情は分からない
電気事情が悪化しているという報告は、昨年の下半期から顕著になった。ところが、昨年9-10月に金正恩氏の公式デビュー関連行事が平壌であったが、この前後に訪朝した人たちから、「平壌の電気事情がよくなっている」という情報が出て広まり、北朝鮮ウォチャーの中にも「北の電気随分良くなったんだって?」と聞いてくる人がいる。
例えば、東大名誉教授の和田春樹氏は、9月の訪朝見聞記を週刊金曜日10/29号に執筆、コリアNGOセンターの機関誌の李鐘元教授との対談でも「平壌の電気事情がよくなっていた」と話している。
しかし、はっきり言って、この時期の平壌をちらりとのぞいただけでは、電力事情の深刻さは分からないだろう。労働党代表者会が開かれた9月末から、軍事パレードが行われた10月の党創建記念日の期間の平壌市は、2010年度でもっとも電気事情が良かった「特別期間」だったと思われるからだ。
石炭産業の不振
北朝鮮の電気事情が深刻な理由は単純だ。エネルギー不足である。北朝鮮には良質の石炭が埋蔵されているが、それをうまく電力生産に使えていない。施設・設備の老朽化は言うまでもなく、皮肉なことに、電力難で地下水を組み上げるポンプの稼働率が悪い。坑道を支える木材も不足、一生けんめて働いても、働かなくても収入も配給も変わらないため、労働意欲は極端に低下している。
石炭事情に詳しい北朝鮮内部の取材パートナー、キム・ドンチョル記者によると、外貨稼ぎと電力生産の狭間で石炭産業は大揺れだという。
北朝鮮の貿易による外貨収入は、石炭と鉄鉱石を合わせた鉱物資源が輸出額でトップを占めている。(昨年の対中国総輸出額は10億ドル強)を
外貨がのどから手が出るほど欲しい金正日政権としては、石炭をどんどん輸出したいところなのだが、そうすると東平壌、北倉にある火力発電所の稼働が落ちてしまう。
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