◇ふたつの政府のはざまで
イラク北西部、シリア国境に程近い町ギルオゼール(アラブ名カハタニヤ)は、イラクの中で「陸の孤島」のような状態にある。
「夏になるとこの地域は連日、気温が50度を越える。電気が来ないのは死活問題なのに、どちらの政府に訴えればいいのか分からない」
地元文化センターの代表、カロー・ラビィさん(40)は困惑した表情を見せる。
ギルオゼールの住民のほぼ全員がクルド系だ。この地域の信仰はイラク第三の宗教といわれるヤズディ教。ゾロアスター教の流れをくむ宗教といわれる。ヤズディ教徒はフセイン政権下ではクルド系として迫害され、現在はイスラム武装勢力から「邪教」として狙われる。
町はニナワ県に属するがクルド系住民が多く、クルディスタン地域政府が民族的理由を背景に編入を求めてきた地域のひとつである。旧フセイン政権崩壊後、バグダッドの中央政府とクルド政府が町の領有をめぐって対立し、すべての行政機能がストップしたままの状態となった。
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