ところが、公判になると、最も大切だとされていた元係長の上村さんの供述が変わっていくわけです。「村木さんの関与はありません。自分の単独犯行です」と。残りの厚労省の同僚たちも公判の証人尋問の中で、「検察に言ったことは違います。供述を押しつけられました。村木さんの関与はないと思います」と供述が変わります。それは、2010年1月~3月の頃です。
自分で取材してきた話と公判の供述の話はどっちが本当なのか、「このズレは何なのだろうか」、そういう疑問を傍聴するなかで感じました。これが、取材を始めた出発点でした。同僚の野上と「郵便不正事件の捜査ミス、捜査のズレを探ってみよう」となったのが、2010年3月末でした。
検察担当の記者の主な役割は、これから特捜部が手がける事件を取材するのがメインです。社会性や公共性、公益性のある背景を伝えていくことは何なのかを考え、取材します。ですから、郵便不正事件の捜査ミスを探るというような過去を振り返る検証作業は、これまでとはベクトルが真逆な方向に取材をしていくことになります。
野上記者と一緒に取材を始めるにあたって、無闇に探っても仕方ないので、目の前で起きていることを手がかりにしようと考えました。
つまり、村木さんの弁護団が公判の中で主張していることをきっかけにしました。ただ、主張をそのまま記事にするのでなく、主張を裏付ける内部の証言や証拠を入手して、弁護団の主張の一歩先を探ろうと自分たちのなかでハードルをつくりました。
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【2011年3月5日(土) エル・大阪2F 文化プラザにて】
★板橋洋佳(いたばし・ひろよし)朝日新聞大阪本社 社会グループ記者(2011年5月10日付で東京本社社会グループ記者)
1976年、栃木県足利市で生まれる。99年4月、栃木県の地方紙・下野新聞に入社。2007年2月に朝日新聞に移り、神戸総局を経て08年4月から大阪本社社会グループ。09年4月から大阪司法記者クラブで検察担当。11年5月より東京社会部に移る。共著に、下野新聞時代に取材した「狙われた自治体-ごみ行政の闇に消えた命」(岩波書店)。