2011年3月5日(土) エル・大阪2F 文化プラザにて
2011年3月5日(土) エル・大阪2F 文化プラザにて

3つ目は、取り調べメモです。
検事が対象者を取り調べる際、供述調書を作る前に、メモを書くんですね。調書の下書きのようなものです。弁護側は公判で、そのメモを証拠提出しなさいと検察に求めていました。

ところが、特捜部の検事たちはメモは捨てました、と言って一切出さなかったんです。彼らの論理で言えば、メモはあくまで控えであって調書こそすべてだというのです。

そこで私は、メモを捨てた理由、あるいは取り調べメモをめぐる検察側の本音を3つ目の取材テーマとしました。
テーマを掲げたものの、しかし、最初はまったく取材はうまくいきませんでした。
さきほどもお話した通り、検察担当記者の仕事は特捜部の未来の動きを探ることです。ところが、いきなり過去の話をするわけです。

取材している検察関係者たちに、「当時の取材を振り返って問題はありますか」って質問するわけです。それに対して、実はね、なんてはじめから言う人はなかなかいません。

「なぜそんな過去の話を掘り下げるんだ。しかもいま公判で有罪を立証中なのに」と言われるのです。
非常に苦しい時間が1、2か月ほど続きました。しかし、ここで諦めてしまっては、その先はないですから、しつこく聞いていこうと、そのために検察担当記者は毎朝、毎晩、検察関係者に取材しているわけですから。

ここで取材をやめると、私たちは検察担当の仕事を放棄したことになります。
信頼関係ができているような関係者と話をする中で、すこしずつ引き出していきます。そのような取材を継続する中で、少しずつ捜査ミスの輪郭がみえてきます。
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【2011年3月5日(土) エル・大阪2F 文化プラザにて】
★板橋洋佳(いたばし・ひろよし)朝日新聞大阪本社 社会グループ記者(2011年5月10日付で東京本社社会グループ記者)
1976年、栃木県足利市で生まれる。99年4月、栃木県の地方紙・下野新聞に入社。2007年2月に朝日新聞に移り、神戸総局を経て08年4月から大阪本社社会グループ。09年4月から大阪司法記者クラブで検察担当。11年5月より東京社会部に移る。共著に、下野新聞時代に取材した「狙われた自治体-ごみ行政の闇に消えた命」(岩波書店)。

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