板橋洋佳(いたばし・ひろよし)朝日新聞大阪本社 社会グループ記者(2011年5月10日付で東京本社社会グループ記者)
板橋洋佳(いたばし・ひろよし)朝日新聞大阪本社 社会グループ記者(2011年5月10日付で東京本社社会グループ記者)

最後にフロッピーディスクのデータの件です。
2010年5月末、村木さんの公判をめぐって、裁判長が、検察官が作成した供述調書が証拠として認められないという判断を下しました。それまでは、検察官の調書は信用性が高いという扱いをされていました。
だから、検察が提出する供述調書は、これまでの裁判でほぼすべてが証拠として認められていたのです。

しかし、今回の郵便不正事件に限っては認められませんでした。おそらく公判の中で、「検事に言わされました」と述べている証人が多くいたこともあり、裁判長もそこをふまえて判断したのでしょう。

検察が証拠として公判に提出した大半の供述調書が認められないことは、異例のことでした。そういう中で、取材をすすめると、最高検察庁がこのフロッピーディスクの件をめぐって、内部調査を極秘裏にしていたことがわかりました。

これも極めて異例のことです。村木さんが有罪か無罪かがわかる前に、最高検察庁が、今回の捜査に問題はないのか、大阪地検特捜部に内部調査の指示を出していたのです。

これがどんな調査かというと、そもそも弁護団が主張しているフロッピーディスクの最終更新日時をめぐる矛盾を、当時の特捜部はどう判断していたのか、まさにわたしたちが疑問に思っていることを最高検察庁も問題視していたのです。
取材を深めていくなかで、のちに逮捕されることになる主任検事がフロッピーディスクの最終更新日時の矛盾については把握していたけれど、特捜部長ら幹部に、捜査ストーリーと矛盾する客観証拠があるということを報告していなかったことがわかりました。

つまり、特捜部として判断していたわけではなくて、現場でまとめている主任検事が単純に上に報告しなかった構図がみえてきました。
しかし、わたしたちの取材では、なぜ主任検事が報告しなかったのかという理由はわからないままでした。それが分からないと、記事としてはインパクトに欠ける、と考えました。そこで、主任検事がなぜ上司に報告しなかったのかという動機に焦点を当てます。それが2010年6月、7月の頃です。
そして、その疑問を、ある検察関係者にぶつけたところ、証拠改ざんの話が出てくるわけです。

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【2011年3月5日(土) エル・大阪2F 文化プラザにて】
★板橋洋佳(いたばし・ひろよし)朝日新聞大阪本社 社会グループ記者(2011年5月10日付で東京本社社会グループ記者)
1976年、栃木県足利市で生まれる。99年4月、栃木県の地方紙・下野新聞に入社。2007年2月に朝日新聞に移り、神戸総局を経て08年4月から大阪本社社会グループ。09年4月から大阪司法記者クラブで検察担当。11年5月より東京社会部に移る。共著に、下野新聞時代に取材した「狙われた自治体-ごみ行政の闇に消えた命」(岩波書店)。

大阪地検特捜部証拠改ざん事件報道を、朝日・板橋記者と語る 第1回

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