次にわたしたちが考えたことは、どこに鑑定をやってもらうのかということでした。
このような電子データ調査は、フォレンジックと呼ばれています。フォレンジックは、データの鑑定、データの鑑識みたいなものです。
インターネットで「フォレンジック」で検索すると、いろんな民間会社が出てきます。その中でどこを選ぶのか。
いろんな会社に電話して確認すると、フロッピーディスクは古い記録媒体なので、ほとんどの会社はやったことがないと言われました。
とりあえずやってみて、1か月後にやはり駄目だったっということもあるという会社もありました。
あとで検察から記事に対して突っ込まれないように、丁寧に裏付け取材を重ねるというのが取材班で決めたルールでした。ただ、裁判には1審判決から控訴できる期間が2週間と決まっています。
ですから、村木さんへの判決が言い渡される2010年9月10日から9月24日までになんとか記事にしたい、と考えていました。そうすれば、仮に村木さんが有罪になったとしても、それを逆転するきっかけになるかもしれない。
あるいは無罪判決が出て、検察が控訴しようとしても、証拠改ざんが明らかになれば、控訴を取り下げるか、止めるきっかけになるかもしれないと思っていました。
フロッピーディスクの鑑定は、東京にある大手情報セキュリティー会社にやってもらうことになりました。鈴木弁護士との日程調整の中で、フロッピーディスクの鑑定依頼を出せたのは2010年9月15日のことです。
速報値でかまわないので、わかったらすぐに連絡下さいということで会社とのやりとりをしていきました。あまり時間がかかるようであれば会社を変えますとも伝え、可能なかぎり急いでやってもらうようにしました。
そうしたところ、9月18日、データに改ざんの跡がみられるということがわかりました。決定的だったのが、データを改ざんした2009年7月13日という日付がフロッピーディスクの解析でわかったことでした。
検察がフロッピーディスクを元係長に返還したのが7月16日なので、明らかに検察の手元にフロッピーディスクがある時にデータが改ざんされていることを示していました。
さらに、最終更新日時を変えるには、特殊なソフトが必要で、意図的にやらないと無理だという結果も出ました。これで7月に引き出した内部証言を裏付ける証拠がそろったわけです。
2010年9月19,20,21日は3連休でした。24日が控訴期限でしたから、この3連休中になんとか記事にしようということになりました。
2010年9月19日、わたしたちの取材のことを検察幹部に伝えました。大阪地検は翌日の9月20日に主任検事を内部調査し、データを改ざんしたという事実を認めました。わたしたちはその証言を取材で得たうえで、調査報道記事として9月21日付朝刊に掲載しました。
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【2011年3月5日(土) エル・大阪2F 文化プラザにて】
★板橋洋佳(いたばし・ひろよし)朝日新聞大阪本社 社会グループ記者(2011年5月10日付で東京本社社会グループ記者)
1976年、栃木県足利市で生まれる。99年4月、栃木県の地方紙・下野新聞に入社。2007年2月に朝日新聞に移り、神戸総局を経て08年4月から大阪本社社会グループ。09年4月から大阪司法記者クラブで検察担当。11年5月より東京社会部に移る。共著に、下野新聞時代に取材した「狙われた自治体-ごみ行政の闇に消えた命」(岩波書店)。
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