新たな時代の兆し(中)
※お断り ミャンマー(ビルマ)入国取材の安全を期して、宇田有三氏は「大場玲次」のペーネームを使用していましたが、民主化の進展に伴い危険がなくなりましたので、APN内の記事の署名を「宇田有三」に統一します。
その夜、おおぜいの村人がジャンスーさんの家に集まってきた。
即興のカラオケ大会が始まったのだ。
ジャウスーさんがカチン州の州都ミッチーナで手に入れたカチン民族のカラオケVCD(ビデオCD)をセットする。画面には歌が流れ、テンポの良い踊りが現れる。チベット人である村人は全員、麻薬撲滅に精を出すカチン解放戦線(KIOの軍組織)の兵士が銃を持って野原を駆けめぐる画面を、無言で見続けた。
次に画面に映ったのは、それまでとは趣の異なった映像だった。なんだ中国のカラオケか。えっ、違うようだ。
よく見ると、どうやらチベットの歌と踊りだ。チベット音楽が流れ、色いろ鮮やかな衣装を身につけた女性の華麗な踊りが続く。横に座っていた男の子が、一緒に歌い出す。えっ、カチンやビルマの歌じゃなく、チベットの歌なら歌えるのか。
そうか、そのようにして彼らは今時のデジタル機器を使って、チベットの文化や言葉を絶やさぬように彼ら自身の伝統文化を引き継いでいるのだ。
つづく
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