◇「和坪鉄路」は9月30日に一次工事完成か
東に目を転じると、豆満江(中国名:図們江)側では「和坪鉄路」工事の進捗ぶりが目についた。昨年6月の訪問時には無かった施設が立ち並び、作業員の数も増えていた。「和坪鉄路」は全長41.68キロメートル、吉林省の延辺朝鮮族自治州の和龍市市内と朝中国境の街、南坪(ナムピョン)鎮を結ぶ鉄道だ。11.9億元(約148億円)の建設予算は全て吉林省が負担していると言われる。
畑ばかりの山間僻地に、いくつもの山を貫く鉄道工事を行っている目的は、南坪鎮にあるのではなく、その対岸の北朝鮮茂山(ムサン)郡にある。北朝鮮で「国の宝」と称されるアジア最大級の鉄鉱山の一つ「茂山鉱山」がそれだ。中国の狙いは総埋蔵量70億トン、うち現時点での可採量だけでも13億から20億トンに及ぶといわれる鉄鉱石だ。
急激な経済発展によって中国国内の鉄需要は増加の一途をたどっている。2009年、2010年には、6億トンあまりという、世界の鉄鉱石の4割近くを輸入している。鉄鉱石の確保は、中国の成長における命題といっても過言ではない。
一方、北朝鮮にとっての茂山鉱山は「宝の持ち腐れ」だった。1980年代に顕在化した経済難によって、電力・機材の不足や採掘設備の老朽化に悩まされ続け、生産量は低迷していた。
中国側は2000年代に入り、鉄鉱石を安定的に輸入できるよう、茂山鉱山への投資を繰り返してきた。2003年に「延辺天池工業貿易有限公司(延辺朝鮮族自治州延吉市)」が1億元(約14億万円、当時)を投資した。
また、2005年末(2006年1月ともいう)ころ、吉林省最大の鉄鋼企業「通化鋼鉄集団」を代表に、中国最大級の鉄鋼企業「中鋼集団」、さらに「延辺天池工業貿易有限公司」の3企業が合同で、70億元(約900億円、当時)を投資する契約が妥結されたという内容がその後報道され、専門家の耳目を集めた。この投資のうち50億元は茂山鉱山開発に、そして20億元は通化市-茂山間の道路・鉄道・送電システムの整備にあてるとのことだった。
また、投資の見返りとして中国側は「茂山鉱山の採掘権を50年間取得」し、「年間1000万トンの鉄鉱石を搬出する」という内容が含まれていた。
しかしながら、この契約が現在まで履行されているかについては諸説あり、現状は不明である。茂山鉱山との契約は、表向きは企業が主体となっているが、実際は吉林省地方政府も深く関わっており、その詳しい内容は明らかにされていないからだ。それでも、工事が続いている現状は、何かしらの契約が維持、履行されている証左であるといえる。
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