取材当日、工事現場では数十人が作業を行っており、十数台の重機も稼動していたが、突貫工事であるという印象は受けなかった。現場の作業員の一人に尋ねたところ「完工は9月30日を予定していると聞いている」とのことだった。筆者が思うに、残り4ヶ月での完工は難しそうであったが。
南坪鎮と和龍駅を結ぶ「和坪鉄路」が完成すると、貨物車を使い茂山鉱山の鉄鉱石の大量輸送が可能になる。和龍駅からの鉄道網は近年、東西に整備されている。西には投資企業があるとされる通化県から、遠く遼寧省丹東市までつながる一方、吉林省の省都長春から、吉林市、図們市とを結ぶ国家級の大地域開発プロジェクトである「長吉図開発先導区」の東端を担っている。
2010年、北朝鮮と中国のあいだの貿易額34億6千万ドルのうち、対中輸出額は11億8千万ドル。そのうち鉱物資源が7割以上(8億6千万ドル)を占めており、鉄鉱石は石炭に次ぎ二番目に多い品目だ。2011年に入っても1月、2月のふた月のあいだに北朝鮮は20万トンの鉄鉱石を輸出し、石炭と合わせた輸出額は1億ドルを超えている(中国税関統計による)。
このような状況を見ると、茂山鉱山の開発は中国側の思うように進んでいるように見える。だが実際には、北朝鮮側の「国の宝」をやすやすと手放したくない思惑や、無責任な投資への対応などによって、中国側に多大の損失が出ている。前述の「延辺天池工業貿易有限公司」だけでもこれまで3億元(約40億円)の損失を出しているという関係者の証言もある。
それでも経済難と政治的孤立(特に韓国との関係悪化)の中、外貨収入を得るための手段が限られている北朝鮮が、中国に対し一定の譲歩をせざるを得ないという状況はしばらく続くものと思われる。着々と進む「和坪鉄路」の工事。北朝鮮にとって「外貨稼ぎの優等生」となった茂山鉱山が、中国による直接的な開発の対象になっていくのかが注目される。
(李鎮洙)