今回の証拠改ざんは検察にとって、最高検察庁が逮捕に動くというぐらい、非常に重く受け止められた事件でした。最高検は東京司法クラブの記者が担当していますから、最高検が捜査に動くという段階で大阪司法クラブとすると取材が難しくなってくるわけです。
そこで、東京司法記者クラブの記者たちとの連携がスムーズにいったことは重要なことです。
組織ジャーナリズムの力といっていいのか、新聞社の力といえばいいのか、大阪と東京の連携が非常にうまく進み、東京の司法クラブ記者たちがその後の捜査の動きを詳細に探ってくれ、全国的な取材になっていきました。
また一方で、朝日新聞だけの孤独な闘いになるかもしれないという恐怖もありました。
他のメディアが一切この件を報道しないいようであれば、朝日新聞社だけで続報も書いて、この事件が問題だといわなければいけない。そうなると、非常に孤独です。他の新聞社が書かないということは、ある意味で敵になるということですから。
現実は、一報を書いた段階で他の新聞社、テレビも含めて、たくさんの続報が報じられました。
検察というこれまで批判の対象にならなかった組織に対して、ほかのメディアも含めて取材の矛先が向いたという点で、他社の取材活動はとても心強いと感じました。
いつもはライバルとして取材していますが、他者の記者も取材することによって、ひとつの事実からどんどん広がり全体像がみえるようになる。
ひとつの新聞社だけの取材では、取材力がいたらず、完全な絵として出せないことも可能性としてはあると私は考えています。
もっといえば、フリーランスの記者たちの力もあったと思います。証拠改ざん事件の発覚前になりますが、村木さんの公判状況を本にして詳しく伝えたフリーの記者でいえば、江川紹子さんや魚住昭さん、今西憲之さんたちがいます。
そういったフリーライターのみなさんとは別に、新聞社という組織に属し、日常的に検察関係者を取材する検察担当の記者は、なにができるのかということになります。
検察担当というのは、朝日新聞でいえば、私と野上の二人しかいません。私と野上が記事を出さなければ大阪地検の記事は朝日新聞の紙面に載らない。
そういうふうに自分たちを追い込んで取材をするなかで、わたしたちがやれることは、検察の捜査を検証することではないかと考えたわけです。
それが結果的に、検察の証拠改ざんという埋もれた事実を明らかにすることにつながりました。
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【2011年3月5日(土) エル・大阪2F 文化プラザにて】
★板橋洋佳(いたばし・ひろよし)朝日新聞大阪本社 社会グループ記者(2011年5月10日付で東京本社社会グループ記者)
1976年、栃木県足利市で生まれる。99年4月、栃木県の地方紙・下野新聞に入社。2007年2月に朝日新聞に移り、神戸総局を経て08年4月から大阪本社社会グループ。09年4月から大阪司法記者クラブで検察担当。11年5月より東京社会部に移る。共著に、下野新聞時代に取材した「狙われた自治体-ごみ行政の闇に消えた命」(岩波書店)。
第1回