(板橋)
検察担当になってからは、重要なものは記事にできたと思っています。
ただ、報道する自由があると同時に報道しない自由もメディアにはあると思います。裏付けが十分でないのに、記事は書けません。そうなると、求められるのは、個々の記者に求められている取材力なのかなと自分に言い聞かせています。
(合田)
今回、板橋さんはたいへんなスクープで新聞協会賞を受賞されました。新聞協会賞の選考過程で、現在進行形ではないんですかという論議もあったと聞きます。
前田さんの公判もこれからですし、大坪さん、佐賀さんふたりは否認してますよね。皮肉なことですけど、全面可視化を要求されているわけです。
踏み込んで申し上げると、特捜部長・副部長も公判の進展もわからないわけですよね。
特捜部長・副部長はよくご存知なんですよね。
(板橋)
他社と同じように、取材対象ではあったということです。また、賞をとったのが早いということでしょうか。
(合田)
新聞協会はベストなタイミングで出されたものだと思っています。
新聞協会の見識と思います。少なくともまだ取材対象として不安定な要素もあるわけで、特捜部が無罪になることもあります。それは板橋さんのお仕事とは関係ないかもしれないけれど、そのあたりの流れをどのようにお考えでしょうか。
(板橋)
特捜部長・副部長が逮捕されるまでに、検察が何らかの不正をしていてそのファクトがつかめて裏付けがとれれば、書くと思います。賞をとったから書かないということにはなりません。
(合田)
多くの現職の記者に話を聞きましたが、9月21日の衝撃は忘れられないと言っています。このスクープは、圧倒的なファクトであるフロッピーディスクという動かない証拠をもって、しかも最高検に事件の着手をさせました。
現職の特捜部の検事を逮捕して、地検が家宅捜索を受けます。こういうところまで持ち込んだことについて、新聞協会賞をとれなければ、新聞の危機だとも思います。
そういう意味で、歴史的な素晴らしいスクープだと思っています。
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【2011年3月5日(土) エル・大阪2F 文化プラザにて】
★板橋洋佳(いたばし・ひろよし)朝日新聞大阪本社 社会グループ記者(2011年5月10日付で東京本社社会グループ記者)
1976年、栃木県足利市で生まれる。99年4月、栃木県の地方紙・下野新聞に入社。2007年2月に朝日新聞に移り、神戸総局を経て08年4月から大阪本社社会グループ。09年4月から大阪司法記者クラブで検察担当。11年5月より東京社会部に移る。共著に、下野新聞時代に取材した「狙われた自治体-ごみ行政の闇に消えた命」(岩波書店)。
大阪地検特捜部証拠改ざん事件報道を、朝日・板橋記者と語る 第1回