第10回 公開議論・質疑応答 (4)ジャーナリストとしての取材姿勢
パネリスト:石丸次郎(アジアプレス・インターナショナル)
板橋洋佳(朝日新聞記者)
司会:合田創(自由ジャーナリストクラブ)
(合田)
郵便不正事件というのは、そもそもが朝日新聞のスクープですよね。
厳しい言い方をしますと、同業他社のなかには検察幹部の言葉として「朝日新聞に毒まんじゅうを食わされた」というのがあります。
(板橋)
郵便割引制度が広告会社や障害者団体に悪用されています、と朝日新聞が調査報道として書いた。
それを結果的に大阪地検特捜部が事件にしたわけです。
そして、特捜部が制度悪用の原因を探る独自の捜査で、厚生労働省から偽の証明書が障害者団体に発行されていて、それは制度悪用につながっていることをつかみ、村木さん元係長を逮捕した。朝日が毒を仕込んだわけではありません。
(合田)
会場からの意見のなかにもあったんですが、そもそも朝日が持ち込んだ話で、マッチポンプではないかということが事実としてあると思います。
板橋さんに言うのは酷な話で、失礼を承知の上でお尋ねしたいのですが、これはちゃんと触れておかなければならないので、そのことについてのご意見をお聞かせください。
(板橋)
繰り返してしまいますが、自称障害者団体が郵便割引制度を悪用しているという記事を書いたのは、確かに朝日新聞です。
結果的に、大阪地検特捜部が悪用している団体の捜査に入り、村木さんの事件に関しては朝日新聞の報道に関係なく、大阪地検特捜部が独自の内偵捜査で虚偽証明書が発行されていて、厚労省が絡んでいるという話を掴んだということなんです。
事実の話でいえば、朝日新聞の調査報道として、村木さんが事件に関与しているとは書いていません。
個人的な考えを述べると、なんらかの犯罪行為があって、それを調べられるのは捜査機関しかないのは間違いありません。情報はどこから得るかというと、一般市民や新聞、雑誌の記事、テレビのニュース、あるいは組織の内部告発などとなります。
捜査機関を一切信じないということではなく、法と証拠に基づいてきちんと捜査してくれればいいわけです。やってないのであればちゃんと直してほしいし、その原因を徹底的に検証してほしい、と思っています。
問題なのは、検察組織に記者がおもねてしまって、あるいは捜査の瑕疵を見つける取材が難しいとあきらめてしまって、結果的に当局とは違う見方の記事が多くないという状態だと思います。
この考えも、以前から指摘されていることで当たり前のことですね。この当たり前のことを自分たちの取材力で、どこまで実践できるかだと思います。
私個人のことでいえば、これからどんな記事を読者に届けられるかだと思います。
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