◇国営企業は開店休業状態 デノミで市場も不調
社会主義を標榜する北朝鮮で、失業者が増えている実態が明らかになった。
北朝鮮内部情報誌「リムジンガン」の記者として活動する北朝鮮人ジャーナリスト金東哲(キム・ドンチョル)氏は、今年2月、平安北道の炭鉱町で仕事を求めさまよう二人の男性を取材した。この時の映像は6月、アジアプレスが世界に公開した。
50歳になるという男性は金記者に対し
「住んでいた家を国に取られたので、外で寝ている。家族は皆死んでしまった。今は石炭のかけらを拾い集めてなんとか食いつないでいる」
と語った。
家を取られた理由については
「去年、『チャト(自土)』で働いていた。それを知った元々の勤務先だった国営炭鉱が『チャトで働くなら家を明け渡せ』と、私を追い出した」
と説明した。
「チャト」とは、近年北朝鮮の炭鉱で急増している、半ば「民営化」された小規模な炭鉱採掘企業のことだ。国営炭鉱が放棄した坑に投資し、労働者を雇って独立採算で経営している。労働者に対しては採掘量による出来高払いを採用し、国営炭鉱とは比較にならない好待遇を原動力にして労働意欲を引き出し、高い生産量を実現している。このため、チャトで働きたがる人が増える一方、エネルギー不足や食糧や給料の遅配・未配が目立つ国営炭鉱の生産は頭打ちになっている。
男性はまた、こうした放浪生活を始めて一年ほどになるが、そのきっかけは2009年11月の「デノミ措置(通貨ウォンの切り下げ。新ウォンへの交換額に上限を設けたため、多くの人々が財産を失った)」であったと語った。
詳しくは語らなかったものの、国営炭鉱での稼ぎでは食べていけないため、妻が商売をして家計を維持していたが、デノミ措置によって引き起こされた経済混乱が、生活の基盤を奪ったものと思われる。妻は死に、娘は川に貝を採りに行った際、溺死したとこの男性は証言した。
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