◇「昨年3月平安南道で 首謀者は逮捕か」専門誌「リムジンガン」が伝える
昨年3月、平安南道の順川(スンチョン)市で体制を批判するビラが撒かれる事件があった。ビラを作成して散布したのは、1960年代に日本から北朝鮮に渡った元在日朝鮮人帰国者のキム・ブソクという男性で、年齢は60代半ばだったという。

北朝鮮内部情報の専門誌「リムジンガン」の第5号が詳細に伝えた。
ビラを直接見た人によれば
「企業所と地方政府の幹部を実名で交代せよとか、労働党、保衛部、警察の批判、そして最後に『人権をよこせ、自由をくれ』と書いてあった」
という。

ビラ事件があった後、周辺地域では住民全員に対する筆跡調査が行われ、人民班ごとに紙に字を書いて提出させられた。現場周辺の聞き取り情報と合わせて犯人探しの手掛かりとするためだ。
結局、キム・ブソクは事件発生から半月後に逮捕されたという。

ビラ事件の背景について、「リムジンガン」は、09年11月に行われた貨幣交換措置による社会混乱があったとし、次のように書いている。
「商売をしてこつこつ小金を貯めていた人も、手広く儲けていた人も、持っている金は紙くずになってしまった。借金や、商売の代金の清算は旧ウォンと新ウォンのどちらで計算するのかで、もめ事がたくさん発生した」

「現金の流通が滞り、商いが成立しなくなってしまった。朝鮮ウォンへの信頼は地に落ち、すぐさま超インフレが発生。そして、大勢の人が破産してしまった。無効にされた旧ウォンは、実質的に政府によって回収されたも同じであり、ほとんどの人は、『国家が嘘をついた』、『政府に財産を没収された』と考えた。金正日政権に対して、かつてないほどの不信と不満、反発が民衆の中に生じることとなった」(リムジンガン)

「リムジンガン」の記者リ・ミヨンの取材に応じた人物は次のように答えている。
「暮らしていけない、貨幣交換のために稼いだ金がパーになった、配給がほしい、自由がほしい、そんな当たり前のことを書いて捕まるのはとても残念だ。北朝鮮の民衆は皆、世間に訴えたいことがある。キム・ブソクは庶民の気持ちを代弁しビラに書いた英雄だと思う」
北朝鮮国内の反体制的な動きについて、この人物は次のように述べている。

「私は朝鮮で生きてきて、これまで一度も暴動やデモが起きたというのを見たことも、聞いたこともない。でもこの数年、権力者や政府を批判するビラや落書きは確実に増えていると思う。特に貨幣交換後は、あちこちで起きていると耳に入ってくる。キム・ブソクの事件と同じ頃に、平安南道の北倉(プクチャン)郡でもビラ事件があって騒ぎになっていた。最近の落書きは「企業所幹部や党の幹部の○○を打倒せよ」というような、露骨で激しいものが増えている」
(取材 リ・ミヨン)

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