茂山郡に住む別の取材協力者の話によると、二〇一一年三月末現在、茂山郡では、(1)渡河者の家族、(2)韓国に行った者の家族、(3)行方不明者の家族に対する「世帯調査」が行われているという。身内に当てはまる者がいる家族の場合、茂山郡から一八〇里(約七〇キロ)離れた五峰(オボン)里へと追放されると、街では噂されているとのことだ。五峰里は山あいの寒村で、ジャガイモ以外何も育たない所だという。
しかし現地の住民たちは「身内に渡河者がいるのは茂山住民の五、六割にもなるだろうに、追放できるもんならしてみろ。茂山の街は空っぽになってしまうぞ」と、当局の姿勢を鼻で笑っているという。
茂山郡を含む豆満江上流の朝中国境地帯ではここ数年、武器を持った北朝鮮の軍人や若者が、対岸の中国の農家に押し入り、強盗をはたらく事件が増えており、殺人も報告されている。この事態を憂慮した中国政府は、豆満江沿いのあちこちに頑丈な鉄条網を張り巡らせている。生きるために川を越える北朝鮮人を、するどいクギ板と、鈍く光る鉄条網が阻んでいるということになる。これでは北朝鮮に住む人々はまるで、国の中に閉じ込められた囚人の扱いではないか。
チャさんは最後に「私は自分で作ったクギ板を、自分で越えて来たことになるんですよ」と、皮肉っぽく笑った。それはいつ終わるともしれない、国境地域で続く渡河者と当局のいたちごっこを笑っているようにも見えた。
取材・整理 リ・ジンス
二〇一〇年六月
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