ラマザーン月15日。ようやく折り返し地点だ。
断食をする人もしない人も、この月の習慣にすっかり慣れたように見える。町の様子も落ち着いた。夕方、アーシュレシテの大なべの前に、人が長い行列を作ることもなくなった。
僕もまた、未明に朝食を取って眠りに就く生活に、今ではすっかり慣れてしまった。相変わらず職場では強烈な睡魔に襲われるが、そんなときは、席を立って廊下を少し歩いたり、冷房の風に当たったり、進んで電話を取ったりして、なんとか眠気を紛らわせている。
この半月で、日没の時刻は17分も早まり、今では定時に仕事を終えて帰宅すると、ちょうど断食明けの時刻になっている。
まずは、買ってきたノンアルコールビールを一瓶飲み干す。毎夕、帰宅時の買物で、毎日味の違うノンアルコールビールを買って帰るのが日課になった。
イランにあって日本にないもの。それはバラエティーに富んだノンアルコールビールだ。レモン、メロン、ザクロ、オレンジ、リンゴ、ナシ、イチゴ、モモ、パイナップル、マンゴー、ラズベリー、スイカといったフルーツ系から、コーヒー、チョコレート、生姜などの変り種まで、5、6社の会社がそれぞれ個性的なフレーバーのノンアルコールビールを販売しており、一ヶ月、毎日買っても、毎回違う味を楽しむが出来るだろう。もちろん、ブラック、クラッシック、ライトなど、シンプルなノンアルコールビールもある。
一杯のノンアルコールビールで僕は十分に幸せなのだが、イラン人であれば、断食明けはもっと楽しく賑やかなものになるだろう。断食明けの軽食エフタールでは、お客を呼んだり、呼ばれたりで、豪勢な食事を大勢の人たちと囲むことになる。
エフタールは、振舞う側も、振舞われる側も、どちらもご利益がある。本来は、日中の飲食を控えて浮いたお金で、貧しい人々に断食明けの軽食を振舞うのがエフタールの慣わしで、預言者ムハンマドが、ナンとナツメヤシの実といった簡素な食事で貧しい人々をもてなしたのが始まりと言われている。しかし現代イランでは、豪勢な食事で友人や親戚をもてなす宴と化しているのは否めない。
ちなみに、エフタールは、モスクでも無料で振舞われる。こちらは預言者の時代同様、簡素なエフタールである。一度参加してみたいと思いつつ、まだ行っていないのは、お祈りがあるからだ。お祈りせずに食べるだけ食べて帰ってくるのは気がひける。
さて、断食一週間で4キロも減った体重だが、その後、体重計の針はぴくりとも動かなくなり、60キロをキープしたままだ。せめて10キロは痩せて、学生時代の引き締まった体型を取り戻そうと考えていたが、そう簡単にはゆかないらしい。