国連人権理事会は22日、シリア政府による反体制派弾圧に関して独立調査委員会の設置等を検討する特別会合を行なった。この特別会合の提案国に、欧米だけでなく、サウジアラビア、ヨルダン、カタール、クウェートといったアラブ諸国が加わっていることに、イランが苛立ちと危機感を募らせている。
イランはアラブ諸国の国民蜂起を「イスラムの目覚め」であり、1979年のイラン・イスラム革命を手本としたものだと称賛してきた。しかし、同盟国シリアの騒乱については、国内メディアと要人を総動員して、「シリア国民はアサド大統領の支持しており、アメリカとイスラエルをはじめとする外国勢力が暴動の黒幕だ」と報じ、他のアラブ諸国の騒乱とは完全に逆の立場を取ってきた。
国連人権理事会での協議を受け、イラン国会人権委員会のエラヒヤン委員長は23日、イラン駐在のトルコ大使と会談し、「シリアの弱体化はイスラエルを増長させる。イランとトルコはこれまで以上にイスラエルに対するイスラム抵抗戦線を強化すべきだ」と強調した。
イスラエルと和平条約を結び、長年イランと国交を断絶してきたエジプトが政権交代したことで、イランは対イスラエル包囲網を強化できると目論んだが、同盟国シリアのアサド政権を失えば大きな痛手となる。
一方、リビアで事実上、カダフィ政権が転覆し、欧米諸国に加えて多くのアラブ・イスラム諸国が反体制派の国民評議会(NTC)をリビア代表として正式承認する中、イランはその表明を控えており、国内メディアからも疑問視する声が上がっている。
イランのサレヒ外相は記者会見で、「正式に承認するか、しないかは問題ではない。イランの基本的立場は、世界のどこであれ一国の国民が立ち上がり、自らの合法性を追及するなら、それは叶えられるべきだということだ」と口を濁した。
イランのメディアはこれまで、リビアの反体制運動を「イスラムの目覚め」の一端として好意的に報じてきたが、その一方で、NATOによるリビア空爆を、民間人を殺害し、同国の資源をねらうものと一貫して非難してきた。
そのため、NATOの協力で成し得た反体制派の首都制圧を全面的には評価できず、リビアの新体制がイランの敵となるか味方となるかも図りかねる中、正式承認に踏み切れない様子だ。
イラン外務省は23日、正式承認の代わりに発表したリビア国民への祝辞の中で、「植民地主義を憎むリビア国民が、決然と国民の団結を維持し、あらゆる植民地主義者の干渉を阻止し、自らの運命を歩んでゆくことを確信する」と念を押している。
【佐藤 彰】