イラン断食日記(5)
断食の期間、ただ耐えるだけでは、1ヵ月間は長すぎる。
この月に行なう善行は普段の何倍もの価値を持ち、この月にコーランの一節を読むことは、コーラン全てを読むに等しいとされる。そして神に最も近づける月ラマザーンは、敬虔なイスラム教徒にとって、断食の苦痛以上に、甘美な時を与えてくれる。
そうした精神性だけで過ごすには、1ヵ月はやはり長すぎる。
そのためイランでは、断食月ラマザーンになると、各テレビチャンネルが競うようにラマザーン月特別ドラマを放映する。ラマザーン月の間、毎日放映され、その日の断食明けの食事を取った後の、家族団らんのひと時に花を添えてくれる。ラマザーン月が近づくと、今年はどんなドラマが放映されるのかと話題になるほど市民権を得ている。
ラマザーン月特別ドラマは、多分に宗教的教訓を含んでいるが、決して説教じみてはいない。今年のラマザーン月で最も人気を博しているのが、3チャンネルで放映中の『天国まで5キロ』だ。主人公の青年アミールホセインは何と初回で殺されてしまう(実は死んではいない)。
その後は、彼を殺した人々、彼を愛していた人々が繰り広げる現世のドラマを、幽体離脱し霊魂となった主人公と、同じく既に20年も霊魂として現世を彷徨っている女性の二人が見つめながら、この殺人事件の解決を目指してゆくという、宗教サスペンスホラーとも呼べるストーリーだ。
この『天国まで5キロ』は、主人公を霊魂とすることで死後の世界を自明とものとし、善と悪、その結果である天国と地獄、そして、その中間で揺れ動く人の心の弱さを描き出している。
このドラマ、毎回毎回、一つの謎が解け、新たな展望が開けてゆく。そして、あまりにもいいところで、続きは明日となってしまう。ラマザーン月も残りわずかだが、このひと月を長く感じさせないことに、このドラマが一役も二役も買っているのは確かだ。