イラク北部アルビルのアッシリア遺産博物館が、イラクのキリスト教徒たちの心のよりどころになっている。
博物館は地元のクルディスタン地域政府によって今年4月に開館された。かつてアッシリア人たちが使用した農耕器具や色とりどりの民族衣装、200年前のアラム語で書かれた聖書など2000点以上が展示されている。展示物のほとんどは寄贈され、イラク各地に暮らすキリスト教徒たちが見学に訪れるようになった。
アッシリア人はキリスト教徒でもある。イラクにはカルデア人などとあわせて80万人をこえるキリスト教徒がいたとされるが、 2003年に米軍が侵攻すると、イスラム武装勢力はキリスト教徒を「米軍の協力者」として攻撃、多くが国外などに逃げ、現在の数は以前の半分以下といわれる。
見学に来ていたモファク・イブラヒムさん(39)は6年前、武装勢力の攻撃を恐れ、バグダッドから避難民としてアルビルに来た。
「これまで自分や家族の命を守ることだけで、自分たちの歴史について考える余裕もなかったが、これらの遺産を見て、私たちは古代からイラクに暮らしてきた民族であり、この地で誇りを持って生きるべきということが分かった」と話す。
博物館学芸員のラヒル・ギリヤナさん(28)は
「アッシリア帝国は世界の誰もが知っているが、その後の歴史や、イラクに数多くのアッシリア人が今も暮らしていることは知られていない。将来はぜひ日本の人たちにも来てもらい、私たちについてもっと知ってもらえたら」と話した。
【玉本英子】