最終回 公開議論・質疑応答 (5)取材とは、ジャーナリズムとは...
パネリスト:石丸次郎(アジアプレス・インターナショナル)
板橋洋佳(朝日新聞記者)
司会:合田創(自由ジャーナリストクラブ)
(石丸)
検察・警察取材を、わたしはやったことがありません。夜討ち朝駆けという手法があります。
朝早くから晩遅くまで検事、刑事の家に張り付いてでコメントをとるというふうに理解しておりますけど、具体的にいつどこに行って、どんなことをするのか教えてもらえますか。
(板橋)
夜討ち朝駆けが必要かというと、結論から言えば、必要ないんです。
話を聞ける環境が作れれば、何時間も待つ必要はないわけで、一対一で話ができる環境を作れるかどうかが問われているんです。
手段は、携帯電話だろうがメールだろうが、どんな手段でもいい。自宅前だと確実に帰ってくるということで、会う確率が高いために、いわゆる朝まわり夜まわりという手段があると僕は理解しています。
ただ、これが常態化してくると、自宅前で待つことが目的に思ってしまう記者も出てきてしまうわけです。
(会場から)
今回の事件で、改ざんの事実を教えてくれた検察関係者とはどういうふうにして関係を築いていったのですか。
(板橋)
その検察関係者の自宅がわかっていたかどうかも含めて言えないですが、知り合ったきっかけは朝まわり夜まわりではあります。それ以外のことは、情報源の特定につながってしまう可能性があるので勘弁していただければと思います。
いずれにしても、私が求めているのは本音で話ができるかどうかです。相手の言い分を聞くだけでなく、こちらからの疑問にも相手が答えてくれる関係を目指したいと思っています。
(石丸)
朝まわり、夜まわりといった現場に多くの記者が投入されていますが、ものすごく無駄だと思うんです。こんなことやっているのは日本のメディアだけじゃないかと。韓国やアメリカもメディアもやってないですよ。なぜ日本は夜回り朝まわりをやらなければならないのでしょうか。
(板橋)
手法が目的になってしまっているのだと思います。待っているという行為が取材していることと思ってしまうのではないでしょうか。
10時間待ちました、すごくがんばったでしょう、というような記者にはなりたくないなと考えています。
(会場から)
板橋さんは、「特オチ」のおそれを感じたことはありますか。
(板橋)
他の記者が何の話を取材しているのだろうと気になるのが記者の心理としてはあります。自分だけ知らない情報があるのかなと不安になるときもありますね。そういう焦りには振り回されないようにやっているつもりですが、なかなか難しいですね。
(石丸)
目的化しているのが問題ですよね。待たれる方にしても、嫌だと思いますが、やめてくれという話にはならないんでしょうか。
(板橋)
当然、なりますが、欠かせない取材相手あれば会うための努力をします。自宅に来るのをやめてくれ、と言われたら、では時間をとってくださいと話をするようにしています、朝も夜も来ませんから週に一回でもいいから時間を作ってくださいと。
記者によって手法は違いますから、朝まわり夜まわりで家の前で待つことが相手に誠意を見せると考えている記者もいるかもしれません。
(石丸)
そういうことが制度化してしまっていることについてはどう思いますか。
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