証言 経済悪化、民衆の困窮 3
整理 石丸次郎/リ・ジンス
2. 増えたコチェビと自殺者
住む家を失い放浪生活を余儀なくされている人のことを北朝鮮ではコチェビと呼ぶ。親が死ぬ、あるいは養育できなくなって家族と離散した子どもたち。商売がうまくいかずに借金が返せなくなったり、いよいよ食べ物を買えなくなったりして家を売り、家族で放浪生活を余儀なくされた「家族コチェビ」も、各地で発生の報告がある。後者は「資本主義型」の転落といってもいい。
何度も言及している通り、食糧配給も給料もなくなる中で、今、大多数の北朝鮮人は商売行為で生計を立てている。それは、「配給をやるからいうことを聞け」という配給労働制から解放され、自立した経済活動を営むことで生活水準を向上させる機会となったのだが、一方でそれは、市場経済の宿命である「商売が失敗する可能性」もはらむものだ。
借金をして品物を仕入れて売って返済する、あるいは後払いで仕入れるにせよ、商品が売れ残り過ぎたり盗まれたりすると、途端に破綻の危機に陥る。庶民は極めて脆弱な現金収入構造の上でよろよろと暮らしているのだ。コチェビの増加は、「貨幣交換」直後から最近まで各地から続けて伝えられている。
「市場ではコチェビが一〇メートルに一人くらいの間隔でいる。子どもだけではなく大人のコチェビもいる。皆食べ物をめぐんでもらおうとしている。街の雰囲気は『苦難の行軍』の時のようだ」。
(一〇年一月二二日 咸鏡北道会寧[フェリョン]市 三〇代女性の電話報告)
「咸興(ハムン)の駅前はすごい数のコチェビだった」。
(二〇一〇年一月末 咸鏡南道咸興市の二〇代男性)
「平壌から咸鏡北道のセッピョル郡まで汽車で五日間もかかった。停電で列車が停まるたびにコチェビが乗り込んできて、食べ物をねだるわ、荷物を盗もうとするわで大変だった。手に持っている食べ物まで狙われる。途中、穏城(オンソン)、南陽(ナミャン)では特にコチェビが多かった。平壌でもコチェビが増えた」。
(二〇一〇年三月一二日 平壌市の国家機関勤務四〇代女性)
自殺者や売春をする女性が増えたという証言も多い。
「取材に行った順川(スンチョン)市は『貨幣交換』後、コチェビが目に見えて増えていた。そして特に自殺する人が増えている。女学生や主婦で売春する人も多くなった」。
(一〇年一一月 キム・ドンチョル記者)
「『貨幣交換』後、若い人たちの間に自殺する人が増えた。あまりにもしんどくて、これ以上生きていく方法が見つからないからだ」。
(一〇年一二月 羅先特別市 四〇代女性美容師)
(つづく)
◆〈リムジンガン〉混迷深める北朝鮮経済(1)-1
◆〈リムジンガン〉混迷深める北朝鮮経済(2)-1
◆〈リムジンガン〉混迷深める北朝鮮経済(2)-2
◆〈リムジンガン〉混迷深める北朝鮮経済(2)-4
◆〈リムジンガン〉混迷深める北朝鮮経済(3)-1