中国側から撮影した北朝鮮の国境都市・会寧(フェリョン)市。咸鏡北道に属し、金正日総書記の生母、金正淑(キム・ジョンスク)氏の故郷としても知られている。2010年7月 撮影:李鎮洙(リ・ジンス)(C)アジアプレス
中国側から撮影した北朝鮮の国境都市・会寧(フェリョン)市。咸鏡北道に属し、金正日総書記の生母、金正淑(キム・ジョンスク)氏の故郷としても知られている。2010年7月 撮影:李鎮洙(リ・ジンス)(C)アジアプレス

 

◇住民は「息子は親父よりたちが悪い」と評価

北朝鮮政府は、密輸や脱北、中国の携帯電話を使っての外国との不法な通話など、国境地帯での「犯罪行為」への取締りを、2005年頃から強化してきた。だが、昨年以降、こうした取り締まりがさらに厳重になったと、北朝鮮内部の取材協力者たちは口を揃える。
その背景には、国境地帯でのこれら「犯罪行為」が、いっこうに「撲滅」できない現状がある。国境警備隊が、地元住民から賄賂を受け取って密輸や中国への越境に目をつぶったり、場合によっては積極的に便宜を図って「ほう助」することが常態化していたのだ。

そこで「暴風軍団」や「特別打撃隊」など、他地域の部隊を国境地帯に投入することで、国境警備隊への監視、牽制を強め、地元住民との慣れ合いや癒着を防ごうというのが、最近の警備強化の目的だと思われる。

とりわけ問題視されているのは、国内外を結ぶ情報ネットワークが水面下で構築されていることだ。これまで中国国境を通じて外部(主に韓国)情報と文化が、ひっきりなしに流入してきた。7、8年前から多様な韓国ドラマなどのコンテンツが、ビデオ、CD-RやDVDなどのかたちで密輸されてきた。また、中国の携帯電話を使って韓国や日本と直接通話することも可能になっている。その主役は脱北して韓国入りした2万人超の人たちで、北朝鮮に住む家族・親戚や知人との連絡網は膨大な数に上ると思われる。

国境地帯を通じて流入するこれらの外部情報は、国内にどんどん拡散していった。長らく鎖国封鎖政策をとってきた北朝鮮政権にとって、外部情報の流入は体制への脅威であることは疑いない。特別部隊を国境地帯に投入するなど、金正日政権は力ずくで「体制の引き締め」を図っている。そこには、国境での「犯罪行為」がなくならないことへの焦りが読み取れる。

特別部隊の投入は金正恩氏の直接の指示によるものだというのが、現地でのもっぱらの噂だ。咸鏡北道に位置する国境都市の茂山(ムサン)郡に住む取材協力者の安東民(アン・ドンミン)氏は次のように語る。

「7月になって『許可無く豆満江を渡ろうとする者は無条件射殺せよ』という金正恩氏の指示が、住民組織である人民班を通じて布告された」
昨年9月の朝鮮労働党代表者会で金正恩氏が後継者として内定して以降、国境取締りが強化されたことは確かで、住民たちの間では「息子は親父(金正日総書記)よりたちが悪い」と評価されているという。

しかしながら最近になって、このような目論見を持って始められた国境地帯での取締りの強化にもほころびが見えはじめている。(続く)
【李鎮洙(リ・ジンス)】
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