分析 食糧難をどう考えるべきか 1
石丸次郎
北朝鮮政府が、国連および各国政府に食糧支援を要請している。崔泰福(チェ・テボク)最高人民会議議長は三月末に英国を訪れ「六〇年ぶりの寒波による収穫量減少によって(食糧事情は)この先二ヶ月が山場になる」と切実に訴えた(韓国「中央日報」四月二日付)。国連食糧農業機関(FAO)と世界食糧計画(WFP)は、二~三月に行った現地調査に基づき、六一〇万人が食糧難に陥るとの報告書を作成、四三万トンの援助を各国に求めた。
確かに、一一年になって北朝鮮内部から伝わってくるのはひどい話ばかりだ。炭鉱で配給が止まった、軍隊で栄養失調が蔓延している、餓死者発生の報告も数多く寄せられている。しかし、誤解してはならないのは、「北朝鮮国内に食糧がないわけではない」という点だ。全国の主な都市の公設市場には、コメもトウモロコシもジャガイモも毎日売られている。「飢え」の知らせと、コメが市場にずらりと並んでいる光景とを、どのよう整合性をつけて考えるべきだろうか?
1. 一様でない食糧事情
社会主義を標榜する北朝鮮においても、地域、階層、職場、組織により、食糧入手の方法と質と量に大きな差があることを考える必要がある。それは特権階層をのぞいて次の三グループに分けることができる。
(ア)「優先配給対象」
現在の北朝鮮で、かろうじて配給システムが維持されているのは、金正日政権が体制維持のためにどうしても必要だと判断している最重要の組織、産業、階層、地域に対してだけだ。具体的には軍隊、警察、保衛部(情報機関)、党と行政機関の幹部、インテリ、一部の優良炭鉱・鉱山、軍需産業など政府が稼働させることを最重視している企業所の従業員とその扶養家族、そして平壌市民の一部である。筆者は人口の二〇%程度ではないかと推測している。
暴力装置と権力機関が体制維持に必要なのは言うまでもない。貴重な外貨を稼ぐことにおいて、石炭と鉄鉱石輸出に頼っており、優良鉱山はどうあっても止めるわけにはいかない。また首都平壌は、政権の支持基盤である忠誠度の高い人たちを住まわせていることと、外国へのショウウィンドウの役割があるため、これまで配給が優遇されてきた。
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