最近の状況
パク:なぜ金の密売を止めたんですか?
チャン:足がついたのさ。五年間、あの手この手で取締りをかわしながら続けてきたんだけれど、知人がふとしたことで捕まって足がついた。私はすぐに保安署に引っ張られて行き、その間に家に踏み込まれて隠していた金......、売ったら一〇〇万ウォンを超えるよ。それと数百万ウォンの現金もすべて没収されてしまった。家内が賄賂を使ってひと月足らずで釈放されたけれど、(賄賂の金を作るために)家まで取られてしまったよ。
パク:大変でしたね......。やはり普段から目を付けられていたんでしょうね。今でも海州では砂金採りが盛んなんですか?
チャン:昔ほどではないが、それでもまだやっているよ。あの辺りにはリンを使った肥料工場の潰れたのがいくつかあるから、溶鉱炉に残ったかたまりなどをコークスを使って溶かすだけで、金は今でも結構採れるんだ。海州製錬所のあたりもまだまだ採れるだろう。
植民地時代、あの工場を建設する際に多くの朝鮮人が死んだと言われているが、今では、朝鮮人はあれにしがみついて生きているのさ。
パク:チャンさんのような元締めも、まだいるんでしょうか?
チャン:いるよ。昔の仲間は今でもやっている。それに最近は中国人が入ってきている。甕津のあたりに吉林省から機材や資材を持ってきて採掘をしているんだ。一昨年からかな。ニッケルと金を掘っている。
パク:朝鮮の人たちを雇用しているんですか?
チャン:技術者たちはみな中国から来ている。朝鮮人は単純な作業をするだけだ。電気も、持ち込んだ発電機ですべて賄っているし、食材から何から全部中国から持ってきているそうだ。周りを柵で囲って人が自由に出入りできなくしている。給料も随分とくれるそうだ。
一月に二〇~三〇万ウォンだとか(現在の実勢レートで約六七〇〇~一万円、北朝鮮の平均給与は二〇〇〇ウォン程度)。
パク:すごいですね。どんな人が働けるのですか?
チャン:聞いたところでは、土台(出身階層や思想的な志向性)がしっかりしている幹部たちの関係者だそうだ。
パク:なるほど......。
* * *
稼動の止まった製錬所では、今でも住民が金を採り出し、生計を立てている。その姿は戦後、大阪砲兵工廠の跡地に残る膨大な鉄や金属を持ち出し生計を立てていた通称「アパッチ族」と呼ばれた在日朝鮮人の姿と重なる。北朝鮮の民衆による金採取→製錬→流通→中国への密輸という流れは、国家統制経済の綻びによって始まり、今ではその綻びをさらに大きくする一端を担っていることが見て取れる。
金総書記が独占してきた金の利権が、民衆によって浸食されていると見ることができよう。北朝鮮に埋蔵されているという豊富な地下資源は、中国、韓国をはじめ、世界中から注目を集めている。このため、将来的には大規模な開発事業が行われ、今回、チャンさんが語ってくれたようなことも、いずれ過去の思い出話になるのだろう。
(おわり)