また、咸鏡北道茂山郡の取材協力者は一一年二月の電話で、「知り合いの将校の家に行ったところ、金正恩の肖像画が掲げられてあるのを見た」と伝えた。偶像化作業は民間人に対してよりも軍で先行しているようだ。

「ジョンウン」という名の人には、名前を変えるよう命令が出されたという情報も伝わって来ている。やはりリ・ミヨン記者からの報告だ。
「二月一〇日前後に、各職場や組織ごとの党細胞の会議の場で、金正恩と同じ『ジョンウン』という名前を持つ人に、党として改名させるよう指示が出されたそうだ。この指示によって、取材した党幹部の知り合いで、平安南道の新成川(シンソンチョン)駅前に住む『リ・ジョンウン』という男性が、『リ・ジョンホ』と改名させられたと聞いた」。

「唯一指導体系」(注2)を国是とする北朝鮮では、指導者と同名を名乗ることは許されないということなのだろう。党機関によって改名指示が出されているとすれば、金正恩への後継作業が、軍や党の高い地位に就かせることに留まらず、「唯一の指導者」を継承させる準備が進んでいることを推測させる。なお、七四年に金正日が後継者に内定した時も、「ジョンイル」という名前の人は改名を強要されたと言われている。

さて、一一年の三月に入ってからは金正恩偶像化作業のペースが落ちているのではないかと思われる報告が入って来ている。キム・ドンチョル記者によると
「三月一〇日頃から、人民班会議と職場の会議で正恩崇拝の学習がぱたっとなくなった。軍部隊では毎日のようにやっているとのことだが」と電話で伝えて来た。

北朝鮮の権力者たちは、どうすれば金正恩にプラスイメージだけを付与できるか、苦心しているのではないか。存在のアピールを急ぎすぎると、蔓延している幹部たちの不正腐敗や民衆の生活苦など様々な社会矛盾が、金正恩のせいだという雰囲気が醸成されてしまうと苦慮しているのかもしれない。
(この項終わり)
注1 〈大統領〉とは、北朝鮮で金正日を指す隠語。
注2「唯一指導体系」については、近日アップ予定の「解説」の記述を参照のこと。

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