4. 検問
北朝鮮当局は住民の移動を厳しく制限しているため、行く先々で検問が行われる。市・郡境、道境には、前述したように必ず哨所と呼ばれる検問所がある。軍、保安部、保衛部が別々に哨所を運営するが、恵山市のような中国と国境を面する都市への入口には、軍内の情報機関である保衛司令部の哨所もあるという。この他にも、建物を構えず道に遮断棒をかけただけの簡易哨所もあちこちにあるとのことだ。
国境都市である新義州市に入る際の様子をキム・ドンチョル記者は次のように述べている。
「新義州市への玄関口に当たるのは龍川(リョンチョン)郡(〇四年に列車爆発事故が起きたことで知られる)。ここの哨所では、必ず全員がバスから降りなければならない。それからしばらく進むと白ペク沙サ 哨所がある。これは平安北道の保衛部の『一〇号哨所(注1)』で、ここでもまた全員が降ろされ通行証に判をもらわないといけない。さらに二〇〇メートルほど離れた所にある別の保安部の哨所を通過して、やっと新義州市内に入れるんです」。
通常、哨所で主にチェックされるのは、運転手は免許証、運行証、そして利用客たちは通行証明書だが、荷物の中身まで見られることがある。通常は「選択検閲」、つまり全員ではなく数人を選んで検査するにとどまるが、何か事件があったり、要人が近くにいたりする場合は全員をバスから降ろし、荷物と体をくまなく検査するという。
荷物検査では、まず金・銅などの金属や電化製品、医薬品などの「統制品」の有無が調べられる。検査を見逃してもらうために賄賂を渡すこともあるが、初めて会う検問担当の場合は、余計に怪しまれて逆効果になる場合もあると、キム・ドンチョル記者は笑いながら語る。
この検問をいかにスムーズに乗り越えられるかが、「サービバス」会社の評判に繋がると、二〇〇四年まで北朝鮮に住んでいた編集部のファン・ミランは言う。力のある機関のバスであれば検問の通過が易しくなるため、結果的に移動する際の時間短縮にもなる。哨所側も何とか賄賂をたかろうと待ち構えているため、日頃からの付き合いも大事だという。「前回通り過ぎる時に運転手が挨拶をしなかった」などの理由で乗客を降ろし、検査をする場合もあったと自身の経験を語った。
通行証を所持していない乗客はどうなるか。ファン・ミランによると、いくつかの場合に分かれるという。例えば毎日のように商売で平城市と新義州市を行き来して、哨所の人間に顔と仕事を覚えられているような人の場合は、賄賂を渡せばこと無きを得る。
また、身元が不確かな人でも、外見から良い暮らしぶりが分かる場合には同様に賄賂を渡せば通過できる。それ以外の場合では、基本的に哨所を通過させずに追い返すのだという。統制が厳しい「一〇号哨所」では、挙動が怪しいとみなされると厳しく調べられる。例えば、中国国境方面に向かうのに、旅行の目的がはっきりせず挙動不審と見られると、脱北目的とみなされて拘束され、短期の強制労働キャンプである労働鍛錬隊に送られることもあるという。
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