2011年7月、石垣港に自衛艦が入港。抗議行動に行った潮平さんは見たことのない団体が隣で「日の丸」を振っているのに驚いた。
2011年9月の防災訓練では陸海空の自衛隊が参加、戦闘機まで飛びかった。石垣や与那国への自衛隊配備計画も浮上。教科書採択の問題はまさにこの「空気」の中で起きた。
《八重山はなめられた》
上原さんも生徒たちの意識の変化を実感する。
「中国は悪い奴。やっつけろ」。
著作権問題などと相まって尖閣問題が拍車をかけた。そのたび密接な関係、友好関係を築く大切さを教える。
だが、育鵬社の教科書は、
《中国の原子力潜水艦が日本の領海を侵犯》
《中国は近年、一貫して軍事力の大幅な増強を進めており、日本を含む東アジアと国際社会の平和と安全にとって心配される動きとなっています》
など、危機感をあおりたてる。
生徒たちにとって教科書はバイブル。「教科書に書いてあるのにどうして、となってしまいかねない」と上原さんは懸念する。
石垣市の新垣重雄さんは、
「当初は歴史を採択されると思ってみな警戒していた。でも歴史では沖縄を敵に回す。沖縄では無理だが、保守市政の石垣なら大丈夫。ここを一点突破しようと。八重山は『つくる会』系の人たちになめられたんです」と悔しがる。
新垣さんも島の右傾化を懸念し、
「僕らが国境の緊張を高めるようなことはすべきではない。逆にそうならないようにするのが、長い間八重山に住んでいるものの知恵」だと話す。
採択を巡ってはその後、玉津氏らの反論を受けるかたちで文科省も介入。中川正春文科相が「(9月8日の協議は)整っていない」と発言するなど、やっと東京書籍で一本化された全員協議の努力は反故にされた。
9月16日までに各都道府県教委は教科書の必要冊数を文科省に報告しなければならないが、沖縄県教委は、公民を除外せざるをえなかった。
そもそも今回のように同地区で採択が異なるケースへの対応策を講じもせず、放置してきたのが文科省。一部政治家の影も見え隠れし、問題はこう着状態にある。
その後、事態は急展開した。10月26日になって中川文科相が「東京書籍を採択した竹富町は無償給付の対象にならない」という方針を示したからだ。育鵬社がいやなら自費で買え、という恫喝である。
県教委は、東京書籍を選んだ9月8日の協議が有効という立場をとるが、文科省は、8月23日の答申が有効という姿勢を崩さない。何がなんでも育鵬社、なのだ。
(つづく)
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