「つくる会」系教科書採択めぐり揺れる国境の島
~沖縄・八重山「公民」採択問題~ (1)
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日本の最南端、沖縄・八重山諸島が「教科書問題」で揺れている。
2012年度から4年間、中学校で使われる教科書がこの夏、全国で採択されたが、八重山地区(石垣市、竹富町、与那国町)の公民教科書だけが期限を過ぎても確定しない。
子どもたちの未来を育むはずの教科書が、政治的な思惑に翻弄されている。国境の島から報告する。
栗原佳子(新聞うずみ火)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
石垣市の市立中学校で社会科を教える上原邦夫さんは2011年6月、教科書調査員を打診された。
八重山の子どもたちが学ぶのにふさわしい教科書はどれなのか。科目ごと現場の教師3人がプロの目で精査・順位づける。
上原さんは快諾、ところが、ほどなく、「事務方のミス」だとして取り消された。
「何かあるな、と思いました」。
差し替えられたのは上原さんともう一人の教師だけだった。どちらも担当は社会科。上原さんは沖教組の八重山支部長でもある。
同じ頃、八重山地区では数カ所で教科書の展示会が開かれていた。検定合格した各教科の教科書を手にとって閲覧できる。ただ、足を運ぶ多くは教育関係者だ。
ところがある日、会場を訪れて驚いた。来場者がどっと増えており、アンケートには判で押したように自由社や育鵬社の教科書を推薦する文言が並んでいた。
自由社と育鵬社。「自虐史観からの脱却」をうたう2社の歴史と公民が、今年の検定に合格していた。
自由社版は「新しい歴史教科書をつくる会(藤岡信勝会長=当時)」、育鵬社版は「つくる会」から分裂した「日本教育再生機構(八木秀次理事長)」「教科書改善の会(屋山太郎代表世話人)」が手がけている。
《独断でルール変更》
「これは危ない。何かが起こる」。
上原さんの疑念は確信に。そしてそれは、教科書採択をめぐる不穏な動きとして表面化していく。
教科書を選定する「八重山採択地区協議会」の会長で、石垣市教育長の玉津博克氏が従来の選定ルールを突然変えたのである。
協議会の役員会を経ずに調査員を任命。協議会の委員も、8人のうち学校現場を理解する各教委の指導課長は除外された。しかも選定は無記名投票に。責任の所在は曖昧になった。
同年8月23日、採択地区協議会は、公民分野で調査員の推薦すらなかった育鵬社版を選定した。調査員の推薦の有無に関係なく、協議会では、全教科書を選定対象とする。そんな〝予防線〟まで張って選ばれたのだった。
八重山地区の教育関係者でつくる「子どもと教科書を考える八重山地区住民の会」事務局長の大浜敏夫さんは「まさに育鵬社という結論ありきだった」と怒りをこめる。
(つづく)
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