二〇一〇年春、「貨幣交換」(デノミ)措置を実施した当時、朝鮮労働党の計画財政部長を務めていた朴南基(パク・ナムギ)が、混乱を引き起こした首謀者だとして銃殺されたと北朝鮮中で噂になった。朴南基は韓国のスパイであり、北朝鮮に混乱を招く目的で金総書記に「フライ報告」を繰り返し、「貨幣交換」を実行させたというのだ。

このように世間の恨みを買っている「中間タリ」であるが、気になるのは、北朝鮮の人たちの非難の矛先が、直接金総書記に向かわないことだ。「将軍様」は責任が免除されているかのように受け取れるのである。終わりが見えない苦しい生活、その責任は「唯一の指導者」である金総書記にないはずがないのだが。この疑問には、平壌に住むリ・ミヨン記者が次のように答えてくれた。

「『中間タリ』による『フライ報告』は深刻ですよ。でも、民衆が『中間タリ』のことを悪しざまに罵るのは、絶対に将軍様を直接批判するわけにはいかないからなんです。朴南基の話にしても、『まさか朴南基が一人で決めて『貨幣交換』をしたわけではないだろうに。国の経済に関わる大事なのだから、将軍様が決裁したに決まっている』と親しい人同士では当たり前のように話しています。

でもそれを人前で言ったら大変なことになりますからね。朴南基は政府の失政の責任を取らされて犠牲になったに過ぎない。そのことを知りながらも、住民たちは将軍様ではなくて朴南基を批判するしかないのです」。
なるほど、「中間タリが悪い」というのは、実は金総書記の政治を批判する表現の一つなのだと言えそうだ。
取材・整理 リ・ジンス
二〇一〇年七月

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