愛知県瀬戸市では通常の3~4倍の放射線が計測された。ほとんどの現場で2~3倍程度は検出されている2005年4月撮影:井部正之

 

事態が動きはじめたのは2005年6月、岐阜県の調査でフェロシルトから環境基準を上回る六価クロムが検出されてからだ。やがて三重県の委員会で追及され、石原産業は提出したサンプルをべつのものにすり替えていたことを認める。
さらに10月、フェロシルトに自社の農薬工場廃液はおろか、他社の工場廃液まで混ぜていたことを公表せざるを得なくなる。最終的に同社は、フェロシルトを「できる限り」全量撤去するとしたが、すでに「利用先」は30カ所ちかく、量は計72万トンという膨大ものになっていた。

◆うやむやにされた放射能汚染
さらに市民団体が石原産業の内部文書を公表した結果、11月4日の三重県議会で同社は、1トンあたり150円でフェロシルトを販売するさい、「用途開発費」などの名目で3000円以上を逆に支払っていたことを認めた。販売すればするほど赤字になる「逆有償」だったわけだが、県内の処分場に埋め立てれば1トン9000円程度のため、大幅な経費削減となった。

処分費を浮かすためにリサイクルを偽装した不法投棄だったのは明らかで、これによって同社は40億円せしめた計算になる。単独の排出者による不法投棄としては日本最悪の規模といえる。
石原産業は「副工場長の独断でやった」と、すべての違法行為の責任を当時の副工場長に押しつけたが、まずあり得ない話である。会社の組織的関与を裏付ける報道が新聞などですでに始まっている。

10万トン近くがリサイクルと称して投棄された愛知県瀬戸市の現場2005年4月撮影:井部正之

 

強制捜査の前日、吉川さんは怒りをこめていうのだった。
「六価クロムの検出も、内部文書の入手もただの偶然です。いまの状態になったのは偶然が重なった結果でしかない。私たちはずっと前からリサイクルとして成立していない事実を訴えていた。おかしなことはいくらでもあったのに、県もマスコミもいっさい動かなかった。本当はずっと前に止めることができたはず。そう思うと腹立たしくて仕方がない」
そして、こうつづけた。

「本質のはずの放射線の問題はうやむやにされたまま、いっさい解決していません」
じつはもうひとつ「偶然」がある。フェロシルトに放射性物質がふくまれているとの情報がもたらされたのも偶然なのだ。目に見えず、においもしない放射性物質が「リサイクル」されたとき、それを知るのはまさに偶然を要する。
現在、自然放射線について規制が検討されているが、フェロシルトで問題になった通常の数倍程度のレベルであれば「影響はない」とする方向だ。フェロシルト騒動はこれから起こる放射性物質による被曝問題を先取りした事件といえる。

じりじりと身の回りの放射性物質が増え、知らぬ間に被曝する時代はすぐそこに迫っている。(おわり)
(初出『週刊金曜日』2005年11月18日号※文中の年月や関係者の肩書きなどは発表当時のまま)

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