9 外貨稼ぎと電気生産の狭間で
北朝鮮が深刻な外貨難に陥って久しい。輸出によって得る外貨の稼ぎ頭は〇八年以降を見ると「鉱物性生産品」である。内訳はトップが固形燃料(ほぼすべてが石炭だと思われる)、二位が鉄鉱石だ。一〇年の固形燃料の対中国輸出額は、三億九六八五万ドルで前年比八七%の増加。対中輸出額の三割強を占めている(韓国貿易協会が発刊する北朝鮮の対中国貿易資料による)。
また「米国の声」(VOA)が中国の税関統計の速報値を引いて報じたところによると、一一年に入って北朝鮮から中国への石炭輸出がさらに急増している。一、二月合わせて八三万一八二九トン、金額にして七七四九万ドル余りを輸出した(二〇一一年四月四日付)。中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国であり、全貿易額に占める比率は五割を超える。
統計を見ると、金正日政権が外貨獲得のために必死に天然資源を切り売りしていることが鮮明である。とりわけ、石炭への依存に拍車をかけているのがわかる。経済成長著しい隣の巨人・中国の旺盛な資源需要が背景にあるが、石炭は北朝鮮にとっても工場や発電所を動かすのに欠かせない貴重なエネルギー源だ。
韓国統一部の統計によれば、この数年間の北朝鮮の火力発電の割合は四五%程度で、燃料のほとんどは国産の石炭によるものと考えられる。つまり、外貨を稼ぐために石炭輸出を増やすほど、発電と国内需要に回せなくなるわけだ。
石炭なくして電気は作れず、電気なくして石炭の採掘はできない。これが北朝鮮石炭産業の現状でありジレンマである。現在の順川地区炭坑の実態についてのキム記者の説明は、次の通りだ。
「〇九年八月に金正日が直洞炭鉱を現地視察した時、たまたま直洞の知人の家に滞在していたのだが、金正日が石炭の輸出を禁じる〈方針〉を出したと、炭鉱幹部から聞いた。国内生産と発電に回せという指示だったとのことだ。そのあと一年間くらいは直洞炭鉱からは輸出がほとんどできなくなって、炭鉱の幹部たちや石炭で商売して食っていた人間は頭を抱えていた。輸出できないと炭鉱には外貨が入ってこないし、国内の石炭価格も(だぶついて)下がってしまうからだ。いつ輸出が再開されるのか幹部たちは気が気でなかったそうだ」。
そこで石炭輸出を担当する軍の幹部が『人民軍の軍服の生地が足りない。石炭を中国に売って買わなければならない』と提議書を上げて、やっと金正日の許可が出たのだそうだ。一〇年の秋のことだったと記憶している。
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