イスラエルによる対イラン軍事攻撃の可能性とともに、経済制裁によるイラン国民の困窮が西側メディアによって報じられている。
イランに対する西側の制裁は、1979年のイスラム革命の勝利以降、30年以上に渡って大なり小なり形を変えて続けられてきた。そのため激しいインフレも高い失業率も今に始まったことではないが、今年に入ってから検討されているイラン中央銀行とイラン産原油に対する西側の独自制裁は、これまでの制裁の中で決定的なものと言われている。こうした現状は、イランの市民生活にどのような影響を与えているのだろうか。
私設両替商が軒を連ねるテヘラン中心街のフェルドゥスィー通り。どの両替所にも、『外貨有りません』の張り紙が張られている。世界市場におけるドル安、ユーロ安の傾向に反し、イラン国内では自国通貨リアルが暴落し、私設両替所で外貨を手に入れることはほぼ不可能になった。海外旅行や海外送金に外貨を要する市民は途方に暮れている。
最近、アメリカの制裁対象に指定されたテジャラト銀行の行員は、外貨が市場に出回らない理由を、欧米諸国によるイラン産原油禁輸措置の決定によるものだ述べた。
「石油の輸出が止まれば、いずれ外貨がイランに入ってこなくなる。国内の更なるドル高、ユーロ高を見越した金持ちや両替商が、手持ちの外貨を手放さず、溜め込んでいるんだよ」。
その結果、輸入品の価格が上昇している。一方で国内産の肉や野菜、乳製品などの価格は、ここ何年も続くインフレ以上の値上がりはしていないと、国営企業に勤めるOL、ゼイナブさんは言う。
「市民生活そのものに最近の制裁の影響はまだ出ていないと思うけど、海外でお金を下ろそうとしたらそれが止められていたり、渡航ビザが取れなかったり、そういうことに対する精神的な圧力を市民は感じている」。
さらに、2月に入ってから、ベルギーに本拠地を置く国際的な銀行決済ネットワーク・SWIFTが、アメリカ財務省の要請を受け、このネットワークからのイランの追放を検討しているという。
「SWIFTから除外されたら、もう終わりだよ。イランは北朝鮮のように完全に孤立する。僕は田舎でジャガイモでも作るしかない」。
中国から家具を輸入するホセイニーさんは、溜息まじりに答えた。
SWIFTは、210カ国の9000社以上の金融機関が加盟する国際ネットワークで、SWIFTから除外されれば、イランの石油代金の決済に支障が生じるだけでなく、イランの銀行が発行するLC(信用状)が無効となるため、イラン国内の貿易業者は海外との一切の取引が出来なくなる。ホセイニーさんは怒りの矛先を、イラン政府と西側の双方に向ける。
「常に対決姿勢で歩み寄ることを知らない今の政府のやり方のおかげで、国民がどれほど不便な思いをしているか。でも、SWIFTからの除外は完全に僕らのような個人業者の首を絞めるものだ。市民を追い詰めて、政府への不満を煽るのが欧米のねらいだとしたら、それは計算違いで、むしろ全くの逆効果だ」。
イランの多くの市民は、すべての問題を西側諸国に転嫁する政治家の発言を鵜呑みにすることも、盲目的な政府批判を繰り広げるもなく、現状への憤りを内に溜め込んでいるかのようだ。
SWIFTが本部を置くベルギーは、イラン排除というアメリカ政府の要請に対し、SWIFTだけが名指しされるのは遺憾だとし、米グーグルや米マイクロソフトなどの、メールを含めた関連サービスのイランからの撤退を要請している。【佐藤 彰】